【選手名鑑】グリーリッシュの現在地|「アストン・ビラ一家」に生まれた男の宿命

 2010年に名将マーティン・オニール元監督の退任以降、低調な戦いが続く古豪アストン・ビラ。UEFAチャンピオンズリーグ優勝1回、プレミアリーグ優勝7回、FAカップ優勝7回を誇るイングランド屈指の名門は、3シーズンの2部生活を経て2019-20シーズンにプレミアリーグ昇格を果たした。かつてドワイト・ヨークやヨアン・カリューらが着用した背番号「10」は、イングランド代表候補にも名を連ねるジャック・グリーリシュへと引き継がれている。名門復活はアストン・ビラで97ゴールを記録したレジェンド『ビリー・ガラティー』の血を引く若き24歳に託された。

目次



グリーリッシュのプレースタイルと選手紹介

● 視野が広い上にパス、ドリブルの制度が非常に高く、「個」の力で局面を打開できる選手。特に細かいボールタッチから独特のリズムで繰り出すドリブルは、プレミアリーグレベルのDFでもなかなか止められない。そのため1試合平均の被ファウル数は欧州の中でもずば抜けており、2019-20シーズンは1試合平均4.42回を記録している。1シーズンで159回のファウルを受けたが、これはOPTAがデータを取り始めて以降、最多の数字である。

● かつてはゴールに直結するプレーの少なさが指摘されたが、プレミアリーグの舞台に帰ってきた2019-20シーズンはで36試合8ゴール6アシストを記録。素行の悪さに関しては、背番号「10」が与えられたことやジョン・テリーら経験豊富な選手とプレーしたことで大幅にメンタル面が改善され、現在は落ち着いた。しかし、20年4月に新型コロナウイルスの影響で外出禁止令が出ていたなか外出。クラブから罰金の処分が与えられた。

● 験担ぎを理由に80年代に日本の女子高校生で流行した「ルーズソックス」のようにソックスを下げてプレーしている。現在はクラブが特別に用意した短いソックスを履いている。

● プレミアリーグで非常に高い評価を受けており、マンチェスター・シティを率いるペップ・グアルディオラ監督は「彼は信じられないような選手であり、トッププレイヤーだ。ファイナルサードで速く、パスも出せ、いつでも何かを生み出すことが出来る。2部に降格した時、移籍のオファーがありながらも残留したことも好感が持てるよ。」と絶賛。また、アストン・ビラOBの元スコットランド代表FWアンディ・グレイ氏は「リバプールの中盤の選手の誰よりも優れている。」と高評価を与えている。チェルシーOBのアラン・ハドソン氏は、古巣にエデン・アザールの後釜としてグリーリッシュを獲得するべきだと進言している。

● プライベートではチームメイトのジョン・マッギンやアストン・ビラユース出身のカラム・ロビンソン(シェフィールド・ユナイテッド)、イングランドU-21代表で共にプレーしたベン・チルウェル(レスター)らと仲が良い。

グリーリッシュのプロフィール

選手名 ジャック・グリーリシュ
ポジション OMF/SMF/CMF
出身 イングランド/バーミンガム
年齢/生年月日 24歳/1995年9月10日
身長・体重 175cm・68kg
現所属チーム/背番号/利き足 アストン・ビラ(イングランド)/10/右足
代表/デビュー年 元イングランドU-21代表/2016年5月19日
過去所属 アストン・ビラ(イングランド)、ノッツ・カウンティ(イングランド/レンタル移籍)
クラブ・代表タイトル トゥーロン国際大会(イングランドU-21代表)
個人タイトル U-17アイルランド年間最優秀選手(2012)、アストン・ビラ年間最優秀若手選手(2014-2015)U-21アイルランド年間最優秀選手(2015)

アストン・ビラ一家に生まれる

 ジャック・グリーリシュは、1995年9月10日にイギリスの大都市「バーミンガム」に生まれた。1897年から1908年にかけてアストン・ビラでプレーした「レジェンド」、ビリー・ガラティーを高祖父にもつアストン・ビラ一家に生まれた。グリーリッシュ自身も幼少期から熱心なアストン・ビラファンで、初めて買ったユニフォームもアストン・ビラであった。



下部組織入団からプロデビューまで

 6歳でアストン・ビラの下部組織に入団。11-12シーズン第31節チェルシー戦でプレミアリーグ初のベンチ入り。当時16歳であった。2013年夏、当時3部に所属していたノッツ・カウンティへレンタル移籍。当時18歳ながらリーグ戦37試合で5ゴール7アシストを記録する大活躍。5月3日に3部のシーズンが終了。すぐにアストン・ビラへと復帰を果たし、5月7日に行われたマンチェスター・シティ戦でプレミアリーグデビューを果たした。

FA杯準優勝から一転、2部降格へ

 翌2014-15シーズンは継続的にトップチームへ帯同し、プレミアリーグ17試合に出場。FAカップでは全試合に出場を果たし、2アシストを記録。チームの決勝進出に大きく貢献した。しかし、2015-16シーズンはアストン・ビラにとって厳しいシーズンとなった。デルフ、ベンテケ、フラール、クレバリー、ギブンらが主力選手が揃って退団。一方、新たに獲得した選手はプレミアリーグでの経験がない選手や、既に全盛期を過ぎた選手ばかりだった。グリーリッシュ自身はレスター戦でプレミアリーグ初ゴールを記録するも、チームは年間勝点「17」に終わり1992年のプレミアリーグ創設以降初めて2部へと降格した。

2部降格によりクラブは大幅改革

 シーズン終了後、チームへの投資を拒むランディー・ラーナーから中国人資産家トニー・シャーへとオーナーが変更。さらには500人の従業員リストラやチェルシーをUEFAチャンピオンズリーグ優勝に導いたロベルト・ディマッティオ氏を招聘など大幅に改革を行った。新たなスタートをきったアストン・ビラだったが、開幕から11試合でわずか1勝と結果を残せずディマッティオは解任。後任にスティーブ・ブルース氏を招聘した。

 アストン・ビラの問題は成績不振だけで終わらなかった。9月にグリーリッシュがバーミンガムのホテルで騒ぎを起こしていたことが発覚。リザーブチームへの追放が発表され、3試合の欠場が決定した。復帰後は再びスタメンとして試合に出場。結果、シーズン13位でフィニッシュし、グリーリッシュは31試合5ゴール5アシストでシーズンを終えた。

背番号「10」

 翌2017-18シーズンからは、ジョーダン・アユー退団以降空き番号であった背番号「10」を着用。さらには、元イングランド代表DFジョン・テリーが加入するなど。その中でグリーリッシュは揉まれメンタル面が大きく成長。かつてのような問題行動を起こすことなく、背番号「10」を背負いピッチで躍動。怪我の影響で27試合の出場に留まるも、3ゴール5アシストを記録した。

 シーズンはプレーオフ圏内の4位でフィニッシュ。昇格プレーオフに進出した。そしてここからグリーリッシュの「覚醒」が始まった。プレーオフ準決勝1st legミドルスブラ戦ではCKから貴重な先制点をアシスト。さらにはデュエル勝利数は脅威の「20回」を記録。2nd legでもピッチ上を駆け回り、2戦合計1-0で決勝進出を決めた。

 2018年5月27日、ウェンブリースタジアムにて昇格プレーオフ決勝フラム戦行われた。前半23分、フラム主将のトム・ケアニーに先制点を許し、前半を1-0で終える。前半はシュート2本と本来のチームとは程遠かった。そして後半、グリーリッシュを中心にアストン・ビラがフラムゴールへ迫る。60分、センターサークル付近でパスを受けたグリーリッシュがドリブルを開始する。相手DF4人を抜きシュートを放つも、DFにブロックされ相手GKにセーブあう。70分、フラムDFデニス・オドイがグリーリッシュへのファウルで退場。数的優位となったアストン・ビラは、さらに猛攻を仕掛ける。しかし、最後までゴールを割ることは出来ず。2季ぶりのプレミアリーグ復帰はお預けとなった。試合終了後、主将のジョン・テリーがグリーリッシュを抱きしめ、グリーリッシュの目には大粒の涙が浮かんでいた。背番号「10」としてチームを引っ張ったが、愛するクラブを1部の舞台へ戻すことは叶わなかった。しかし、この試合のグリーリッシュは「異常」であったのは間違いない。デュエル勝利数は「21回」。ドリブル成功数は「8回」、被ファウル数は「9回」とファウルなしで止めることは不可能だったというのがわかる。

愛するクラブに残留、そしてプレミアリーグへ

 プレーオフでの「覚醒」をみたトッテナム、マンチェスター・ユナイテッド、リバプール、チェルシーなど名だたる強豪クラブがグリーリッシュの獲得に乗り出した。この時アストン・ビラは、財政的に苦しく放出もやむなしかと報じられていた。しかし、7月の中旬にエジプトの大富豪ナセフ・サウィリス氏らが投資。ナセフ・サウィリス氏ら(55%)、トニー・シャー(45%)という共同オーナーが誕生し、グリーリッシュらほとんどの主力選手が残留し、2023年夏までの契約延長にサインした。2018-19シーズンは開幕2連勝とロケットスタートをきったビラだったが第3節以降は大失速。第11節プレストン戦をもってスティーブ・ブルース監督は解任された。後任にはブレントフォードを率いていたディーン・スミス氏が就任。アシスタントコーチには前年限りで現役引退していたジョン・テリーが就任した。スミス新体制となってからビラはかつての調子を取り戻す。しかし、第21節でグリーリッシュが負傷してからは再び大失速。以降、13試合でわずか2勝と大きく低迷し、残り12試合の段階で13位と昇格は厳しいかと思われていた。この状況でケガから復帰したグリーリッシュがクラブに大きな変化をもたらす。負傷したジェームズ・チェスターの代わりにキャプテンマークを巻き復帰した第35節ダービー戦からクラブ史上初の公式戦10連勝を記録。怒涛の追い上げに成功したビラは、リーグ戦を5位でフィニッシュ。2シーズン連続の昇格プレーオフに駒を進めた。

 プレーオフ準決勝の相手は同シーズンにプレミアリーグから降格してきたWBA。1st leg、2nd legともに苦しい展開となり勝敗はPK戦へともつれた。このPK戦でビラを救ったのが守護神ジェド・スティーア。WBAの1番手のメイソン・ホルゲイト、2番手のアーメド・ヘガジのキックを続けてセーブ。結果、PKスコア4-3でビラが勝利し、2シーズン連続でプレーオフ決勝への進出を決めた。

 そして2019年5月27日、ウェンブリー・スタジアム。準決勝でリーズ相手に大逆転で決勝へと駒を進めたダービーとの決勝が行われた。結果はFWアンワル・エル・ガジとMFジョン・マッギンのゴールで2-1でビラが勝利。4シーズンぶりのプレミアリーグ復帰を決め、選手やウィリアム王子を初めとするビラのサポーター達は歓喜の瞬間を迎えたのであった。

プレミアリーグでの覚醒

 2015-16シーズン以来のプレミアリーグ復帰となったアストン・ビラは、前シーズンにレンタル移籍で加入していたDFタイロン・ミングスやFWアンワル・エル・ガジらを完全移籍で獲得。また、GKトム・ヒートンやDFマット・ターゲット、FWウェズレイらの計12人の補強に成功。そのほとんどの選手がプレミアリーグ初挑戦のため、ややスタートダッシュに出遅れたアストン・ビラだったが、第7節バーンリー戦よりチームがまとまり始め、続く第8節ノリッジ戦は5-1で大勝。グリーリッシュ自身も同シーズンのプレミアリーグ初ゴールを記録した。その後もグリーリッシュを中心に調子を上げてきたアストン・ビラだったが、年末年始にマッギン、ヒートン、ウェズレイといった中心選手が相次いで長期離脱。クラブは降格圏へと順位を下げ、新型コロナウイルスの影響によるリーグ中断期間に突入した。

 リーグ再開後、アストン・ビラは調子が上がらず残り4節で残留圏内の17位ワトフォードまで勝ち点4差と苦しい戦いが続いた。グリーリッシュ自身も第26節トッテナム戦を最後のゴール、アシスト共に遠ざかっていた。第35節、ホームでクリスタル・パレス相手に2-0で勝利し、第24節ワトフォード戦以来の勝利をあげた。続くエバートン、アーセナル戦で勝ち点4を獲得し、残留圏内の17位に浮上。最終節ウェストハム戦はスコアレスだった後半84分にグリーリッシュが先制ゴールを記録。直後にウェストハムに1点を返されるが、グリーリッシュの15試合ぶりのゴールによってドローで試合終了。18位ワトフォードがアーセナルに敗戦したことにより大逆転での残留を決めた。

 長らく降格圏にいたためグリーリッシュに対しては多くのビッグクラブが獲得に乗り出していたが、アストン・ビラが残留したことにより状況は一変。アストン・ビラは8000万ポンド以上のオファーがない場合、交渉に乗る気がなく、愛するクラブに残留することが濃厚となっている。

グリーリッシュの動画



年度別出場成績

2019-20/アストン・ビラ

プレミアリーグ 36試合8ゴール6アシスト
EFLカップ    5試合2ゴール2アシスト

2018-19/アストン・ビラ

FLC(英2部)  31試合6ゴール6アシスト
FLCプレーオフ  2試合0ゴール1アシスト
EFLカップ    1試合0ゴール0アシスト

2017-18/アストン・ビラ

FLC(英2部)  27試合3ゴール5アシスト
FLCプレーオフ  3試合0ゴール1アシスト
FAカップ    1試合0ゴール0アシスト

2016-17/アストン・ビラ

FLC(英2部)  31試合5ゴール5アシスト
FAカップ    1試合0ゴール0アシスト
EFLカップ    1試合0ゴール0アシスト

2015-16/アストン・ビラ

プレミアリーグ 16試合1ゴール0アシスト
FAカップ    2試合0ゴール0アシスト
EFLカップ    3試合0ゴール1アシスト    

2014-15/アストン・ビラ

プレミアリーグ 17試合0ゴール1アシスト
FAカップ    6試合0ゴール2アシスト
EFLカップ    1試合0ゴール0アシスト

2013-14/アストン・ビラ/ノッツ・カウンティ

プレミアリーグ 1試合0ゴール0アシスト

FL1(英3部)  37試合5ゴール7アシスト
FAカップ    1試合0ゴール0アシスト
EFLトロフィー  1試合0ゴール0アシスト





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