ヴィッセル神戸は17日、新監督にコロンビア名門アトレティコ・ナシオナル元監督のフアン・マヌエル・リージョ(52)氏が就任する新体制を発表した。ヘッドコーチも新任のスペイン人イニーゴ・ドミンゲス・ドゥラン(39)が務める。これまで監督を務めた吉田孝行(41)氏は事実上の解任でチーム強化のスタッフに転身する。
また、リージョ監督の就労環境が整うまで、アシスタントコーチから昇格する林健太郎暫定監督(46)、アカデミースタッフのマルコス・ビベス氏(43)がヘッドコーチに就任する暫定の体制で臨む。新体制への移行時期は未定。
急な体制変更は何を成すのか。これまでの経歴戦術スタイル、ヴィッセル神戸での予想戦術について触れてみたい。
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リージョの戦術スタイル
リージョ戦術の根幹は『パスサッカー』だが「攻撃こそが最大の防御」といえる布陣を敷く。スタートポジションこそ【4-3-3】であっても、【2-3-3-2】【4-3-2-1】【4-2-4】など、相手や状況によって可変型のシステムに変化させるケースが圧倒的だ。ブラジルW杯に挑んだ日本代表が標榜したポゼッションとパスワークを組み合わせた『自分たちのサッカー』とは異なり、敵陣戦力を踏まえて戦術に変化が加えられる。必ずしも自分たちの力だけでリスクを犯すのではなく、状況を踏まえて適切な処置を施すサッカーは、運動量以上に頭脳戦や局面での技術を必要とする。
かつてリージョは”Sportiva”で南アフリカW杯前の日本代表についてコメントを残したこともあるが、日本代表の下がりすぎるDF陣に対して「スペースを与えすぎだ」と苦言を呈していた。リージョの考えに師事し、師と仰ぐ”ペップ”グアルディオラ(現・マンチェスター・シティ指揮官)も考えは同様であり、CBの位置に必ずしもディフェンダーを用意することはしなかった。かつて指揮したバルセロナでも、本来は中盤のハビエル・マスチェラーノを最後列に据えるケースがあるなど、戦術に依拠して役割を全うすることのできるプロフェッショナルを配置する”タクティカルプレー”が本質の一つに上がる。
16歳で指導者の道に進み、29歳でリーガ・エスパニョーラデビュー
16歳にして指導者の道に進んだリージョは、6年間下部リーグで研鑽を積むと、当時スペイン4部リーグ相当のテルセーラ・ディビシオンに属したデポルティーボ・ミランデスに就任する。陽のあたる坂道を登りだしたのは当該シーズンからだった。23歳にしてミランデスをテルセーラ・ディビシオン優勝に導いてクラブ初のタイトルを獲得。3部相当セグンダ・ディビシオンBへの昇格に成功した。この時期から下位リーグで席巻させたのは成功事例の一つに【4-2-4】がある。
選手として大成できず16歳で転身したリージョが考え尽くした末の実現的な戦い方だった。『攻撃こそ最大の防御』自チームのポゼッションを増やすことで勝機を見出した。相手のプレッシャーに負けて無闇にボールを放り込むのではなく、最終ラインからパスを繋いで、大きな展開からサイドを崩す。その上でゴール前に対して総掛かりで押し込めば、自ずとゴールは生まれるというパスサッカーと積極性をメインとしたプランだ。「4トップ」という超攻撃的かつアバンギャルドな戦術は斬新かつリージョの代名詞となっていく。
1992年にデポルティーボ・サマランカの指揮官に就任すると、蓄えた戦術がアウトプットを加速させた。初年度は3部2位、翌年に首位で昇格を果たすと、1994-1995シーズンは2部セグンダ・ディビシオンで4位となり、ついに1部の挑戦権を得た。1995-1996シーズン、史上最年少の29歳でリーガ・エスパニョーラ在籍クラブの指揮官として臨むこととなった。しかし、2部以下のリーグで圧倒した4トップ戦術が機能しない。強靭な戦力に対して4トップで挑み、勇敢さや華やかさを標榜するも、1部リーグの屈強さやスピードに対応することができず、スペースを与えてしまい、成績を残すことができなかった。シーズン終盤には成績不振を理由に解任の憂き目に遭ってしまい、”センセーショナル”とこれまで称えてきたメディアから掌返しの批判を受けた。
理想と現実の間でも貫く攻撃性
しかし、各クラブはリージョの戦術を欲した。リージョの持つ戦術や選手たちを束ねる人間性は、特別なものだった。対話を好み、自らの戦術理論を頭の中に落とし込む。納得できぬものとはセッションを続け、チームを一つの輪にしていく。サラマンカを去った後、レアル・オビエド、テネリフェ、レアル・サラゴサ、シウダ・デ・ムリシア、テッサーラとスペインクラブを渡り合ったものの、いずれも約1年でクラブを去ることとなった。
リージョは2005年のシーズンに、新たなチャレンジとしてメキシコの地を選択する。その際、カタールでプレーを続けながら指導者養成学校に通っていたジョゼップ・グアルディオラをチームに誘う。スペイン代表やバルセロナで名声を得たグアルディオラだが、セリエAでの挑戦が不発に終わり、華やかな選手生活に戻る気はないと欧州でのプレーを拒否していた。同年11月にグアルディオラは選手生活を終える。しかし、リージョの戦術知識や眼がグアルディオラへと引き継がれる瞬間でもあった。
「リージョはフットボールに対する見識もさることながら、愛情が感じられる人物だ。彼の真の魅力は理論じゃない。その人間性にある。私はメキシコでのプレー時代にリージョのチームに在籍し、彼が素晴らしいフットボール理論を持っていることを知っている。なにより、彼は常に選手と対話し、チームを作るが、そのアイデアを選手たちに伝える力も優れていた。私は監督を志すことを決めてから、改めて彼が指揮するチームの練習に参加させてもらったほどだよ」と監督としてのキャリアをスタートさせた後のグアルディオラは、受けるインタビューでリージョへのリスペクトと大きな影響を受けた存在であることをコメントし続けた。
監督同士で迎えたリージョvsグアルディオラ
2008年にレアル・ソシエダ指揮官に就任してスペインに戻ったリージョだが、昇格を果たすことができなかった。しかし翌年12月に1部リーグで低迷していたアルメリア指揮官の座につくと、2010年3月リージョ率いるアルメリアと愛弟子グアルディオラ率いるバルセロナの対戦が実現した。前年にリーグ、コパ・デル・レイ、チャンピオンズリーグとスペイン史上初の3冠を達成し、「このチームがクラブ史上最強だとは思わないが、最高の成績は残せた」とのコメントまで残したチームに対して、リージョはドローに持ち込んだ。師の威厳を見せ、降格圏に沈んだチームを13位でフィニッシュさせたことでリージョへの風向きもまた変わった。
それでも翌2010-11シーズン11月21日、再度迎えた師弟対決で0-8と完敗。リージョを師と仰いだグアルディオラが師を超えた瞬間でもあった。
岡崎慎司、清武弘嗣を評価したことも
グアルディオラに完敗した直後、クラブから解任されたリージョは4年間表舞台から去った。2014年にコロンビアのミジョナリオスで監督業を再開すると、2015-16シーズンは初めてナショナルチームであるチリ代表のアシスタントを務める。2016-17シーズンはセビージャのアシスタントを務め、2017年にアトレティコ・ナシオナルを率いた。そして2018年9月17日、ヴィッセル神戸の監督就任が発表された。
2009年にSportivaに掲載された日本代表に対するコメントの中で、FW岡崎慎司を褒めるコメントを残し、2016-17シーズンでは、多くの実力者を差し置いて日本代表MF清武弘嗣をトップ下で起用。平等に対話し、リージョの中のタクティカルなプレーを施すことができる者を抜擢する方針は若かりし頃と変わらない。
イニエスタなど、現バルセロナやスペイン代表メンバーの幼き日々に、アイドルやスターのような存在だったグアルディオラが師と仰いだフアン・マヌエル・リージョが作り出すサッカーが日本で具現化される。イニエスタやポドルスキだけではない。神戸の未来を担う若者たちがリージョ・サッカーを作っていく。
過去にリージョが率いた布陣図一例
2009-2010アルメリアvsバルセロナ
2010-2011アルメリアvsバルセロナ
2016-2017エイバルvsセビージャ
ヴィッセル神戸で起こりうること
ヴィッセル神戸には「イニエスタ」がいる。バルセロナで展開されたパスサッカーや攻撃的な戦術を展開するには格好の存在だ。またポドルスキとルーキーながら戦術眼に長ける郷家友太の存在は大きい。状況ごとで変化する多機能型パスサッカーが展開される可能性は高い。
上記が現状のベース布陣であり、下記が【2-3-3-2】を中心とした攻撃性の猛威を振るう際の布陣図の一つだ。中央にイニエスタ・藤田直之・三田啓貴を配置し、スペース管理のうまい中央の藤田が後ろに下がる。対人ケア能力に長けるアーメドヤセルと大崎怜央が藤田の動きに連動してサイドのスペースを埋め、サイドバックの藤谷壮やティーラトンを前線へと押し出す。最前線に張るポドルスキが中盤へ降りてイニエスタに近づかせると、最前線にはレシーバーとなる郷家にフィニッシャーの古橋亨梧が残る。【4-2-4】や【4-3-2-1】【4-2-3-1】にも変貌可能である。現状Jで加速する3バックと5バック変化性にも、4トップや2トップで間の対応も可能であり、打ち崩すことができる。
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