ゆったりとした自然な動作だった。軽やかなステップから右足を一閃。GKは動けずDFの頭上を超えたFKが決まる。後半アディショナルタイム5分。試合の勝敗を決定づける一撃、熱狂の渦の中心に平戸太貴がいた。
1997年生まれの平戸太貴は、鹿島アントラーズのアカデミーで育ち、ジュニアユース、ユースと順当にその才を磨いてきた。とりわけ、自身高校3年時にはチームの司令塔として高円宮杯U-18プレミアリーグを制し、G大阪とのチャンピオンシップでは起点となる縦パスで決勝点を演出した。翌年、ユースの主力だったCB町田浩樹、MF田中稔也、FW垣田裕暉と共にトップへと昇格。翌年、出場機会獲得をメインとした武者修行的レンタル移籍で町田ゼルビアへ移籍すると、26試合出場3ゴール7アシストと頭角を現した。
レンタル期限を延長して挑んだ町田2年目の今季、ついに飛躍の時を迎える。開幕から2戦連続の2アシストで波にのると、6月30日以降の8試合では6ゴール6アシストと手のつけられない領域まで駆け上がった。
平戸太貴の武器は正確なボールコントロールにある。パスを出す位置だけでなく、コースどりやボールのおさめどころが独特のため、奪うためにはテクニックを必要とするが守備陣の守備判断以上の成長加速度でパススピードや判断力を向上させている。
早い話、「いかにフリーな状況を作り出せるか」が鍵となる。ドリブラーではないため、密集地に埋没してしまうと、個性を発揮することはできない。よって、2手先・3手先の行動予測から自らフリーになる動きの強度を高めるか、密集地であっても正確無比なコントロールパスを出すことができれば、J1でのトップクラスまたは海外へ進出は現実的なものとなる。
意識の差は既にプレーにも現れている。ユース時代や鹿島アントラーズの1年目と比較してもキックの質は高い。ただ2015年のユース時代、2016年のプロ1年目、2017年のの町田1年目と比較すると、明らかに蹴ったボールの質がゴールへと向いている。手前のストーンやゾーンにピンポイントで落とすのではなく、自らが試合を決める意識が上向いている。また、ダイナミックな振り幅から芸術的なボールが届いていたのに対し、初動動作からボールを蹴り込むまでのスピードが毎年明らかに向上している。短距離や長距離の陸上競技と、キッキング動作の時短化は凡そ比類した努力かもしれない。高校年代までで築きあげたモーションを幾月もの年月をかけてコンマ何秒単位で精錬させていく匠なような職人さがそこにはあった。
直近松本戦後半アディショナルタイムのゴールには、まさに今シーズンの成長が詰まっていた。右足一閃で振り抜かれたボールはDFの頭上を超えてゴールネットに吸い込まれた。構えていたDF橋内優也のジャンプタイミングは昨年ならば弾けたかもしれない。覚醒期の若武者が見せたデータ以上の成長スピードは今季の町田をさらなる高みへと誘うことだろう。