2018年1月1日に行われた天皇杯決勝で勝利を収めたセレッソ大阪を埼玉スタジアムでも、セレッソ大阪の地元大阪でもないところで応援し続けていたチームがあった。リーグ戦4位、天皇杯の結果次第でACL出場の可能性が残されていた柏レイソルである。
「柏から世界へ」を標榜する、2011年のクラブ・ワールドカップ出場を契機に熱の高まった合言葉。少しずつチームスタンスを作り上げる中、ユース・ブラジル人以外でスタメンを張るのは稀なこと。そのちーむにあって2017年シーズン、山口から乗り込んできた若武者がいた。
たった一年で日本代表入りを推す声もで始めた右サイドバック、小池龍太である。
J2からやってきた、というだけでも「叩き上げ感」はあるが、そもそもエリート街道を辿っていた選手でもある。小学生時代は、MF三竿健斗(現鹿島アントラーズ)らと共に横河武蔵野FCのジュニアでプレー。2008年の中学校進学時にJFAアカデミー福島の入校テストに合格し、3期生として入校。いとこであるFW中島翔哉(現・ポルティモネンセ/ポルトガル)の存在も小さくなかっただろうか。東京Vユースでそれこそ世代最強レベルの親族を傍目に見つつ、自身はJFAアカデミー福島を最短記録でU-18プレミアリーグへと押し上げた。
中島がプロの舞台で結果を出し、同世代がU-17W杯の舞台で活躍。大学進学ではなくプロだったが、声はかからなかった。
選択した進路はJFLで戦っていたレノファ山口。アマチュア契約でスクールコーチで生計を立てながら戦った。話がどうしても盛り上がってしまうのは、スタメンで出続けている選手であることと、JFA、J3、J2、J1とたった4年でカテゴリーを駆け上ってきた点だ。
2014年に加入したレノファは、翌年J3へと昇格。圧倒的な強さを見せてJ3も一年で突破した。上昇し続けるチームにあって、小池は3年間で公式戦通算93試合に出場。稀有な経験を積み重ねるバランサブルな攻撃型サイドバックをJ1のクラブが放っておくわけがなかった。
世界を見据える柏レイソルにとって、世界を見据える陣容は必要だった。しかし、クラブの標榜する形式のチームバランスも重要だった。それこそ、前回のACL出場時の右サイドバックはSB酒井宏樹である。今やマルセイユ(リーグ・アン/フランス)で世界的なレベルのメンバーとしのぎを削ってスタメンを勝ち取っている。世界を知ってより化けた選手の一人だ。
移籍当初はカップ戦要員とも思われたが、開幕節のスタメンを勝ち取ると、4節以降はスタメンを張り続けた。FW伊東純也と見せる右サイドのアタックは柏のもはや代名詞。
テレビでの観戦や、スタッツでは秀でる部分を見つけにくい選手でもある。それこそ、酒井宏樹のような上背や高速クロス(今ではデュエルや支配力も備わったが)、SB長友佑都(インテル/セリエA)のような圧倒的な運動量やガムシャラさ、SB太田宏介(FC東京)のようなFKといったわかりやすい武器がない。あえて言うならばポジショニングだが、一言で言えば「気が利いている」のだ。
それもそのはず、JFAアカデミー時代にはFW金子翔太(現・清水エスパルス)という、得点王にも輝いた世代屈指のストライカーがおり、レノファ山口時代はFW岸田和人・MF島屋八徳(現・徳島ヴォルティス)・MF福満隆貴(現・セレッソ大阪)といったスペシャル・ワンなオフェンスユニットがい続けた。柏でもそれは変わらない。
同じサイドを組む伊東に加え、FWディエゴ・オリヴェイラやFWクリスティアーノ、MF武富孝介らは得点力に突破力も兼ね備える。チームオフェンスはするが、わざわざ我を出して自分で攻め込むより、圧倒的なスキルを誇るメンバーがやりやすいように体裁を整えるだけでチームの勝率を向上させられるのだ。
わかりやすいデータ(※今後図解)がある。
※(内は同ポジションの平均)
得点 :0
アシスト :3
シュート数:12(9)
枠内 :2(2.7)
ファウル数:25(20)
被ファウル:24(18)
パス数 :59(49)
パス成功数:47(40)
パス成功率:79%(82%)
キーパス数:1.6(1.1)
キー成功数:0.9(0.6)
PAへのパス:4.4(3.8)
PAパス成功:2.0(1.7)
チャレンジ:6/12(7/12)
(守備)チャレンジ:5.4/10…54%(4.8/8…60%)
(攻撃)チャレンジ:1.2/3…40%(2/4.2…49%)
空中戦 :2.3/4.6…50%(1.9/3.5…55%)
ドリブル :0.4/0.9…40%(0.8/1.4…54%)
タックル :1.8/2.9…60%(2.0/3.1…66%)
インターセプト(自陣):6(4.7)
インターセプト(相手):1.3(0.8)
ピックアップ (自陣):9(6)
ピックアップ (相手):2.8(2.1)
個人のスタッツ部分が初めてのJ1で遜色戦えている点だけでもものすごいことだが、好不調の波がない点も大きい。そして、インターセプトやフリーボールのピックアップ、ペナルティーエリアへのパス数に関しては、J1のサイドバックでもトップの数値を誇っている。単純能力値限定ならば、SBエウシーニョ(川崎)や西大伍(鹿島)、藤谷壮(神戸)がかなりのレベルにあるが、チームオフェンス・チームディフェンスを意識した数値と考えれば、既に小池龍太はJ1代表レベルといっても遜色はない。
先のE-1選手権では同サイドの伊東純也は選出されたものの、小池の選出はなかった。それでも小池は言った。
「代表を見ていて、J(伊東純也)をもっと引き出せるという自負はありましたね」そして、
「ハリルさんがどういうことを要求しているのかは行ってみないとわからない所で、自分がどういう評価を受けているのかも聞きたいですし、逆に今までどういう理由で選ばれていなかったのかという部分も、自分の課題として見つけられる良いチャンスですし、いろいろなことを聞けて、感じられる所にまず一歩足を踏み入れるということが自分の中の目標なので、まずは選ばれる資格を得たいと思います」
https://web.gekisaka.jp/news/detail/?234763-234763-fl
仲間を仲間と信じてチームの力を高められる存在。1+1を2にも3にもする選択肢を増幅させる存在、2018年のロシアW杯までは間に合わないかもしれない。アンダーカテゴリーの代表経験すらない彼にとって、世界と戦うことの証明はACLで行う必要がある。証明が成されたとき、新生日本代表の右サイドバックとしての招集の可能性は低くない。まだ駆け上がれるステップアップ。アイドルが駆け上がる坂のような自己投影を、小池龍太を通して我々はまた行うことができるかもしれない。