【クラブ紹介】マンチェスター・シティユースが”青田買い”した選手たち

近年、多くの若手選手を青田買いしているマンチェスター・シティ

▽2008年にUAE資本が投入されてから再びイングランドを代表するクラブに上り詰めたマンチェスター・シティ。ダビド・シルバやヤヤ・トゥーレ、セルヒオ・アグエロ、ラヒーム・スターリング、ケビン・デ・ブルイネといったタレントを多額の移籍金で獲得すると同時にユースの強化にも務めてきた。その強化の方法は「練習環境の整備」と世界中から有望なタレントを集めてくる「スカウト」である。

《環境の整備》
▽下記の動画からも確認出来るが、本拠地エティハド・スタジアムの周りに世界トップクラスの練習環境が整っている。かつてライバルクラブであるマンチェスター・ユナイテッドでプレーしたロビン・ファン・ペルシーも、ユナイテッド在籍時は息子をマンチェスター・シティの下部組織でプレーさせていた。(現在はフェイエノールトの下部組織でプレー)

《スカウト》
▽キーラン・トリッピアーやフィル・フォーデンのように10歳前からシティの下部組織でプレーしている選手は珍しいケースであり、現在世界で活躍しているシティユース出身と呼ばれる選手の大半が10代中盤で国際大会で活躍した選手、もしくは国内のシティよりブランド力が劣るクラブから引き抜いているケースが多い。2019-20シーズンもWBAからイングランドU-18代表FWモーガン・ロジャーズ(17)やスポルティングからポルトガルU-19代表FWフェリックス・コレイア(19)らを引き抜いている。また、当たり前だが引き抜いた選手全員が後に活躍するとは限らず、14年から15年にかけてガーナでシティグループが展開するアカデミーから引き抜いた5選手は全員が大成しなかった。(ガーナからの選手獲得はFIFAの規則にある「18歳未満の国外選手の獲得」に引っかかるとして調査の対象に。)

▽このようにユース時代に引き抜かれた選手がトップチームで活躍するケースは非常に限られており、2019-20シーズンでトップチームに定着しているのはエリック・ガルシアだけだ。ただ、下部組織出身の選手がトップチームで活躍していないというのはシティからすると痛くも痒くもないのだ。その理由を箇条書きでまとめてみた。

● ユースの選手はプロデビューしている選手と比較すると大幅に移籍金が安い。
● トップチームが多くのタイトルを獲得することでマンチェスター・シティのブランド力が向上。「シティが育てた選手」という肩書が付き、多額の移籍金で売却することが出来る。これにより多くの利益を得ている。
● ユースチームで結果を残し、ある程度年齢を重ねたユースの選手は基本的にローン移籍で経験を積ませるが、多額の移籍金でオファーが来た場合は売却。代わりに買い戻しOPを付随し、その移籍先で活躍した場合は他クラブより安い金額で買い戻すことが可能。(例)19年夏アンヘリーニョ

▽また、選手側にも「シティが育てた選手」や「シティが獲得した選手」という肩書が付くメリットがあり、多くの選手がシティユースから他クラブへと移籍して活躍している。今回、「Evolving Date」ではマンチェスター・シティの下部組織が獲得した名の選手を厳選。それでは紹介していこう。

*ユースが獲得した選手の条件は①前所属のトップチームで出場機会を得ていない。②マンチェスター・シティユースで試合に出場している。の2つに当てはまる選手とする。これにより対象外となる主な選手は以下の通り。

▼DF
板倉滉(フローニンゲン) *マンチェスター・シティからのローン移籍
ステファン・サヴィッチ(アトレティコ・マドリード)

▼MF
ドウグラス・ルイス(アストン・ビラ)
ヤンヘル・エレーラ(グラナダ) *2020-21シーズンはローン移籍先のグラナダでプレー
アレイクス・ガルシア(ディナモ・ブカレスト)

▼FW
エネス・ウナル(ヘタフェ)
パトリック・ロバーツ(ミドルズブラ) *2020-21シーズンはローン移籍先のミドルズブラでプレー
食野亮太郎(リオ・アヴェ) *2020-21シーズンはローン移籍先のハーツでプレー

● アンガス・ガン(Angus Gunn)
代表:イングランド代表
Pos :GK
生年月日:1996/1/22(24歳)
身長/体重:196cm/77kg
所属:サウサンプトン
加入時の年齢:15歳(ノリッジより加入)
シティ在籍期間:2011年夏~2018年夏
シティ通算:0試合


▽元スコットランド代表GKブライアン・ガン氏を父に持つサラブレッド。選手時代に加え、監督としてもノリッジに在籍経験のある父の影響でノリッジの下部組織で育成された。2011年からイングランドの年代別代表に選出され、同年夏に25万ポンドの移籍金でマンチェスター・シティに引き抜かれた。シティではセカンドチームで正GKを務めたが、選手層の厚いトップチームでの出場機会はなかった。古巣ノリッジへのローン移籍を経て、18年夏にサウサンプトンへ完全移籍。2018-19シーズン後半からレギュラーポジションを手にしたが、9失点を喫した2019-20シーズン第10節レスター戦後からは再び控えに回っている。ちなみに父のブライアン・ガンもプレミアリーグで1試合7失点を喫したことがある。

● ロリス・カリウス(Loris Karius)
国籍:ドイツ
Pos :GK
生年月日:1993/6/22(27歳)
身長/体重:189cm/90kg
所属:ウニオン・ベルリン(ドイツ) *リバプールよりローン移籍
加入時の年齢:16歳(シュツットガルトより加入)
シティ在籍期間:2009年夏~2011年夏
シティ通算:0試合

▽長くCL決勝における致命的なミスに苦しめられるGK。ウルムとシュツットガルトの下部組織で育成され、2008年からドイツの年代別代表に選出。代表戦でのプレーを見たマンチェスター・シティがカリウスに関心を示し、2009年夏にシティへの移籍が決定した。シティのセカンドチームではあまり出場機会を得ることが出来ず、11年夏に母国のマインツへ移籍。マインツでの活躍を経て、16年夏にリバプールへとステップアップをするが、2017-18シーズンのCL決勝で2失点に絡みチームは1-3で敗れた。18年夏にアリソンがリバプールに加入したこともあり、2018-19シーズンからは2シーズン連続でベシクタシュへとローン移籍していた。20年5月にベシクタシュとのローン契約が解除され、リバプールに復帰。20年夏にウニオン・ベルリンへのローン移籍が決定。

● カリム・レキク(Karim Rekik)
代表:オランダ代表
Pos :CB
生年月日:1994/12/2(25歳)
身長/体重:186cm/84kg
所属:セビージャ(スペイン)
加入時の年齢:16歳(フェイエノールトより加入)
シティ在籍期間:2011年夏~2015年夏
シティ通算:3試合

▽度重なるケガに悩まされる未完の大器。2002年からナタン・アケやテレンス・コンゴロ、トニー・ヴィリェナらと同じフェイエノールトの下部組織で育成され、11年夏に行われたU-17欧州選手権では中心選手として優勝に大きく貢献。大会終了後にマンチェスター・シティに引き抜かれた。当時、ユースのコーチを務めていたパトリック・ヴィエラ氏も「彼がシティで成功しなければ、それは間違いなく我々の失敗になる。」と語るなど太鼓判を押していた。2012-13シーズンにシティ史上最年少外国人選手としてプレミアリーグデビューを飾ったが、トップチーム定着とはならず、PSVへのローン移籍を経て15年にマルセイユへ完全移籍。17年には同じくシティユースに在籍経験のある弟のオマル・レキクと共にヘルタ・ベルリンへと活躍の場を移した。ヘルタではケガに苦しんだ。20年夏にセビージャへ完全移籍。弟のオマル・レキクはアーセナルに完全移籍。








● ジェイソン・デナイヤー(Jason Denayer)
代表:ベルギー代表
Pos :CB
生年月日:1995/6/28(25歳)
身長/体重:184cm/70kg
所属:リヨン(フランス)
加入時の年齢:18歳(JMGアカデミーより加入)
シティ在籍期間:2013年夏~2018年夏
シティ通算:0試合

▽シルビーニョ前体制ではリヨンでキャプテンを務めた若きディフェンスリーダー。アンデルレヒトの下部組織を経て、元フランス代表MFジャン=マルク・ギユーが設立したJMGアカデミーで育成された。13年夏、リバプールやリールセとの競合の末、マンチェスター・シティが争奪戦を制した。同シーズンはシティのセカンドチームの中心選手としてプレー。続く2014-15シーズンからはセルティックやガラタサライ、サンダーランドへローン移籍し、18年夏に完全移籍でリヨンに加わった。ルディ・ガルシア現体制でもメンフィス・デパイ不在時はキャプテンマークを巻いている。

● エリック・ガルシア(Eric Garcia)
代表:スペインU-21代表
Pos :CB
生年月日:2001/1/9(19歳)
身長/体重:182cm/73kg
所属:マンチェスター・シティ
加入時の年齢:16歳(バルセロナより加入)
シティ在籍期間:2017年夏~
シティ通算:23試合

▽2019-20シーズンよりトップチームに帯同するスペイン期待の若手。地元バルセロナの下部組織出身で、同世代の最高のCBと評されたが、17年夏に元バルセロナ監督のペップ・グアルディオラ率いるマンチェスター・シティに引き抜かれた。1年目からセカンドチームの中心選手として活躍し、19年夏に行われたU-19欧州選手権ではスペイン代表の優勝に貢献した。2019-20シーズンからはヴァンサン・コンパニの退団や相次ぐ守備陣の負傷離脱なども重なりトップチームに帯同。バルセロナ仕込みの高いビルドアップ能力はペップ好みであり、既に高い信頼を得ている。また、古巣バルセロナが復帰を画策しているとされ、今後の去就にも注目が集まる。

● アンヘリーニョ(Angelino)
代表:スペインU-21代表
Pos :LSB
生年月日:1997/1/4(23歳)
身長/体重:175cm/69kg
所属:ライプツィヒ(ドイツ) *マンチェスター・シティよりローン移籍
加入時の年齢:16歳(デポルティーボより加入)
シティ在籍期間:2013年夏~2018年夏 2019年夏~
シティ通算:15試合

▽19年夏に買い戻しOPを行使した攻撃的SB。10歳からデポルティーボの下部組織でプレーし、13年夏に16歳でマンチェスター・シティに引き抜かれた。加入後はシティのセカンドチームで中心選手としてプレーするが、トップチームには定着せず2015年は同じシティグループのNYシティ(MLS)でプレーした。2017-18シーズン、シティの提携先であるエールディビジのブレダで大活躍し、18年夏に同じオランダの強豪PSVが完全移籍で獲得した。同シーズンにPSVで10アシスト以上を記録し、シティは1年での買い戻しOP行使を決断した。20年冬に出場機会を求めライプツィヒへローン移籍している。

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