【小野瀬康介】レノファ山口の猟犬が目指す先

 一歩目、二歩目より根幹の意識差かもしれない。CB前貴之が前線へのフィードを送る動きを知ってか知らずか、一人の選手が最前線へと走り出していた。ワンバウンドしたボールを肩でトラップしてボレーシュートを放つと、ゴールが決まっていた。
 この得点が先制点となったレノファ山口は勢いのままに勝利を収めた。開幕3試合で10得点と爆発した山口は現在首位に立っている。好調さをもたらしたメンバーの一人が、先制点をあげたRWB小野瀬康介かもしれない。


 2011年横浜FCユース時代に二種登録選手としてデビューし、翌年に正式なプロ選手となったが、出場数や得点数など毎年着実に数値を伸ばしてきた。唯一2016年に出場数が前年より落ち込むと、シーズン終了後に移籍を決意してレノファ山口へと身を移した。
 サイドバックやサイドハーフ、時にはセカンドトップを務めるケースもあったが、ベースはウイングバックであり、ピッチの横幅ギリギリまで使って相手陣内に攻め込んでいくのが特徴的な選手である。決してパス技術や空中戦フィジカル等に長けた選手ではないが、前を向いた場合の果敢さはJ2でも屈指のレベルにある。日本人離れしたシュート選択能力を持ち、ペナルティエリア外からも厭わず放つ。それだけでなく、相手陣内へのフォアチェックやプレスなど、守備も実直に行える。奪うことができれば、裏の広大なスペースは小野瀬のものだ。
 まるで猟犬である。それはプレーを見ればわかる。自らの前方にボールがある局面において、小野瀬ほど相手に食らいつく選手は代表レベルでも稀で、スペースを穿とうとする動きも現在のカテゴリー以上で見てみたいと思わせられる。アンダーでの代表歴はわずかだが、不足しているものの自己分析も行えているようだ。

 移籍直後の昨シーズンは、チームの調子自体も上向かず、一人気を吐いている状態だったが、2017年末に大きな変化が起こった。
 シント・トロイデン(ベルギー・ジュピラーリーグ)でアシスタントコーチを務めていた霜田正浩の監督就任が発表されると、移籍してくる選手たちの質自体に大きな変化が起こった。元々、『霜田正浩』は現場主体の人間である一方で、日本代表の監督たちを影で支える仕事を長年行ってきた。直近でもアルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレそして、ヴァイッド・ハリルホジッチと蜜にコミュニケーションを行ってきたのが霜田だった。クラブや代表で成績を残してきた彼らのノウハウを徹底フル活用したトレーニングを起こすことで、小野瀬をはじめ、各選手たちの主体性や練習に対する考え方、自らのキャリアへの意識など、開幕前の段階から着実に何かが変わっていた。一時的にチームにあった閉塞感が取っ払われ、JFL・J3を圧倒的な攻撃力で席巻してきた、元のレノファ山口を垣間見ることができた。

 「練習が楽しい」と異口同音で並べた選手たちは、開幕戦直後から笑顔を爆発させる。オナイウ阿道の見事ゴールで先制すると、小野瀬も流れに乗った。2点リードで迎えた後半22分、中央のオナイウが右サイドへボールを展開させようとするやいなや、既に走り出していた小野瀬康介はボールを受けるとそのままの勢いで右足を振り抜いた。これが決まるともう手をつけることはできない。フォアチェックだけでなく、決して得意としない崩しやフィニッシュワークにも参加し、今度は三幸秀稔の得点をアシストした。
 今節でも得点を重ね、これで3試合で2得点1アシスト。ウイングバックの成績とは到底思えない成績だ。ただ、小野瀬が望んだサッカーが今の山口にはあるのかも知れない。チーム一丸となった戦うことを望み、結果を残すことに飢えてきた。「前を追う」下から這い上がっていく選手にとって技術以上に持ち合わせておくべき資質だ。彼の情熱は、ハイライトではなく、試合全体を通して見てほしい。一度夢破れたり、挫折した経験がある人こそ、「おお、いけ、もっといけ!」と思わせてくれる何かが彼にはある。
 得点後、間違えて相手チームのサポーター前に行ってしまったのもご愛嬌。代表だけではない醍醐味が、Jリーグに存在する。

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