激動の2018明治安田生命J1リーグ
12月1日、2018年のJ1リーグは劇的な形で幕を下ろした。J1残留を争っていた湘南ベルマーレと名古屋グランパスが2-2の引き分け、サガン鳥栖がアウェー鹿島アントラーズ戦をスコアレスドローで乗り切ったことで、残すは川崎フロンターレとジュビロ磐田の一戦だった。
磐田は、後半33分に古巣対戦となったFW大久保嘉人が先制点をあげるも、5分後にCKから川崎CB奈良竜樹の得点によって追いつかれていた。引き分ければ残留となる磐田だったが後半49分、左から放たれたスピード性のあるグラウンダーのクロスをCB大井健太郎がクリアするも、そのままゴールネットに吸い込まれた。これにより名古屋が大逆転の残留、磐田がプレーオフへとまわることになった。
一方、プレーオフ圏にまわる可能性もまだあった横浜F・マリノスはセレッソ大阪相手に破れたものの、可能性自体が自チームの大敗と関連チームの大勝など、低確率の内容だったため回避。最後までもつれた残留争いは12位湘南以降、横浜FM、鳥栖、名古屋、磐田の5チームがいずれも勝ち点41で並ぶ史上最も混戦のシーズンとなった。
そして34試合すべてを守り続けた横浜F・マリノスGK飯倉大樹はこの日、ひそかな大記録を打ち立てた。
計測史上、GK史上世界最多のパス成功数を記録
弊社ならびに『Evolving Data』は、2015年以降世界のデータ企業と提携かつ独自にデータ開発を行い、各所にデータを提供している。その中で、2015年以降の計測史上、GKとして初めてシーズンパス成功本数「1000本」を超えたのが2018J1リーグにおける飯倉大樹だ。さらに国内初はもう一つ。パス成功率が80%を超えた。
ぜひ、上記図表とともにご確認いただきたい。例えばJリーグ(J2やJ3を含めたとしても)で見れば、飯倉大樹を除いた最多総パス数はGK西川周作(浦和レッズ)の1091本だが、成功率が70%を割っている。GKク・ソンユン(北海道コンサドーレ札幌)は71.24%と飯倉を除く最高のパス成功率を誇ったが、パス成功数は669本だった。昨年の西川周作が901本と相当な数を誇ったものの、1000本には達していない。全世界的に見ても、ロングボールを蹴り込むことの多いGKはパス成功率が80%を超えることは少ない。Jリーグでは70%を超えるケースすら稀だ。80%を超えるのは、戦術的にも最新鋭の欧州最高峰でも一部のGKに過ぎない。
世界レベルでの上位選手もピックアップしてみた。順不同で記載しているが、”集めた”のではなく、”彼ら以外を見せる必要性がなかった”とも言える。オランダやポルトガル、ブラジルと言ったリーグでも、パス成功数が900本を超えたり、総パス数が1000本を超えていたり、パス成功率が80%を超えている選手は不在だった。(※全リーグ、記録すら残っていない時期に関してはさすがに把握できず)
パス成功率が最も高かったのは、昨シーズンのパリ・サンジェルマンで正守護神を務めたGKアルフォンス・アレオラだ。実に90%を超え、フィールドプレイヤーでも屈指の成績を残した。成功率80%を超えたのは、15-16シーズンのクラウディオ・ブラボ、同シーズンのマヌエル・ノイアー、17-18シーズンのエデルソンのみで、パス成功本数で1000本に肉薄したのは、こちらも17-18シーズンのバティスト・レネ(ディジョン)の994本が最多だった。
いずれも、最後尾でチームを支えるだけが仕事ではなくなった現代サッカーのGKの本質を全うした姿が印象的である。高い位置から相手FWのプレスがCBやGKに対してかけられる中、ロングボールや単に出すパスではなく、相手戦術の裏をかき続けてプレスをかいくぐりつつ、いかに自チームの選手につなげられるかという高い技術が必要となる。また、後方でのボール回しの際も、CBの間に割って入り、リベロのような役割をこなしながらサイドバックの選手を高い位置に押し上げて攻撃意識を高める狙いもある。
史上最多に肉薄した「Runs Out」
もう一つ、飯倉大樹は史上最高クラスの成績に肉薄した点をお伝えしたい。『Runs Out(以下、R)』というペナルティエリアから飛び出してプレーに関与する指標について、彼は25節終了段階で史上最高値を叩き出していた。
過去のトップは15-16シーズンのリーガ・エスパニョーラにて、アスレチック・ビルバオGKイライソスが記録した37試合65R(1試合平均1.757R)だった。飯倉は、25試合段階で25試合46R(1.84R)と遥かに凌ぐ成績を叩き出した。
前項の図表下に記載した、15-16シーズンにおける”伝説のレスター”において守護神を務めたGKカスパー・シュマイケルなど、Runs Out系の守備範囲をもつGKは皆パス成功数やパス成功率が低くなる傾向が高い。その中で飯倉は新たなスタイルを切り開いた。
しかし最終的に終盤9試合は4Rと、降格の可能性もあったチームで現実的な守備陣形を貫き、チームは残留に成功。25試合46Rの期間は42得点43失点だったが、残す9試合では4R14得点13失点。元々安定感のあるGKとして名を馳せていたが、新たなチャレンジに取り組んだ。序盤は不安定なポジショニングからミドル・ロングシュートを放たれることもあったが、守備陣含めた戦術変更が成された夏以降に独自スタイルが発露。日本発のニュータイプゴールキーパーが今開花しつつある。
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