【クラブ紹介】ブエンディアをクラブ記録で獲得!古豪から強豪へと歩みを進めるアストン・ビラ

クラブを愛するディーン・スミスの下でプレミアリーグ昇格へ

 18年10月にアストン・ビラの監督に就任したディーン・スミス。当時ブレントフォードは昇格プレーオフ圏内に位置しており、一方のビラは中位に沈んでいた。なぜブレントフォードでの昇格のチャンスを捨ててまでアストン・ビラの監督に就任したのか。その理由はお金ではない。アストン・ビラこそ彼が愛するクラブなのである。

 父ロン・スミスさんはアストン・ビラの熱心なサポーターであり、本拠地ビラ・パークで警備員を務めていた。そんな父にも影響されディーン・スミスも幼少期から熱心なサポーターであり、毎週のようにビラ・パークに通い試合を観戦していた。ディーン・スミスの幼少期は1981-82シーズンにUEFAチャンピオンズカップを制するなどクラブは直近50年では最高の成績を収めていた。そして、ディーン・スミスのサッカー選手としての目標はアストン・ビラの選手になることであった。しかし、ビラの選手になる夢は叶わず、指導者へと転向。自身も現役時代にプレーし、ビラ・パークとも距離が近いウォルソールで監督キャリアをスタートさせた。2015年12月からブレントフォードで指揮を執り、2018-19シーズンは昇格に向けて好位置につけていた。その状況で自身の愛するクラブから監督就任のオファーを打診されたのだった。ディーン・スミスは愛するクラブをプレミアリーグへ、そして世界のトップクラブへ戻すために就任を決意。クラブは、まさにオーナー陣が掲げる野心と同じ方向を向いている監督を招聘することに成功した。

 スミス監督就任後、クラブは大きく立て直し着実に順位を上げていった。しかし、18年末にジャック・グリーリッシュが負傷離脱するとチームは大きく低迷。13試合でわずか2勝と大きく低迷し、残り12試合の段階で13位と昇格が厳しい状況に追い込まれていた。この状況でケガから復帰したグリーリッシュがクラブに大きな変化をもたらす。復帰戦である第35節ダービー戦で初めてキャプテンを務め、そこからクラブ史上初の公式戦10連勝を達成。一気に順位をまくりあげ、5位でフィニッシュし、昇格プレーオフ準決勝ではウェスト・ブロムにPKの末に勝利した。2シーズン連続で昇格プレーオフ決勝に進出し、決勝戦でダービーに2-1で勝利、父と共に1980年代のアストン・ビラ黄金期を見ていたディーン・スミス監督と、クラブレジェンドであるビリー・ギャラティの血を引く主将ジャック・グリーリッシュというビラを愛する2人が軸となり、2015-16シーズン以来のプレミアリーグ復帰を決めたのであった。

プレミアリーグ復帰後の積極補強と大改革

 2019-20シーズンにプレミアリーグへと復帰したアストン・ビラ。選手の年齢層が上がり、前シーズン限りで契約満了を迎えた選手が10名以上いたこともあり大型補強を敢行。前シーズンからローン移籍で加入していたタイロン・ミングスやアンワル・エル・ガジ、コートニー・ホースらを買い取り、ウェズレイやマット・ターゲット、ドウグラス・ルイス、エズリ・コンサら12選手を新たに獲得した。その際に擁した費用は1億3000万ポンドという大金であった。同シーズン、アストン・ビラは年末年始に核となる選手が相次いで長期離脱を余儀なくされ、とても厳しい戦いが続いた。ラスト4試合で勝ち点8を積み上げ、なんとか逆転での残留に成功。補強の当たり外れが激しかったこともあり、スポーツ・ダイレクターを務めていたヘスス・ガルシア・ピタルクはシーズン終了後に契約満了に伴い退任した。

 20年夏、スポーツ・ダイレクターの後任にコペンハーゲンで結果を残していたヨハン・ランゲ(Johan Lange)が就任。また、スカウト責任者にトッテナム時代にソン・フンミンやトビー・アルデルヴァイレルトの獲得、レスター時代にリヤド・マフレズやエンゴロ・カンテの獲得に関わったロブ・マッケンジー(Rob Mackenzie)が就任した。この2人のもとで20年夏の補強は大成功を収める。エミリアーノ・マルティネス、マッティ・キャッシュ、ベルトラン・トラオレ、オリー・ワトキンスの4選手を完全移籍で獲得。また、ロス・バークリーをローン移籍で獲得した。2020-21シーズン、バークリーは負傷してから大きくコンディションを落としたが、それ以外の完全移籍で獲得した選手は加入初年度から絶対的な主力として大活躍を収めた。また、ヨハン・ランゲは他クラブから選手を獲得する際には必ずアドオン(出来高制)の移籍金を提示して交渉している。ランゲ体制となってから具体的に獲得オファーを出した殆どの選手の獲得に成功しており、彼の敏腕ぷりが良くわかるだろう。また、地元メディア「Birmingham Mail」によると21年冬にマルセイユからモルガン・サンソンを完全移籍で獲得した段階で2人の共同オーナーが、選手補強や給与などのトップチームへの投資、レディースチームへの投資、アカデミーへの投資、設備投資、前オーナーの借金を含めた総投資額が4億ポンドを超えたと報じている。

 ヨハン・ランゲの功績は選手獲得の交渉だけではない。ランゲは就任直後からすぐに主力選手と若手選手の契約延長交渉をスタートさせた。ジャック・グリーリッシュ(2025年夏)、ジョン・マッギン(2025年夏)、タイロン・ミングス(2024年夏)、マット・ターゲット(2025年夏)、エズリ・コンサ(2026年夏)ら絶対的な主力選手との長期契約締結に成功。キーナン・デイビス(2024年夏)、ジェイコブ・ラムジー(2025年夏)、ジェイデン・フィロジン=ビデイス(2024年夏)といったクラブ期待の若手選手とも長期契約を結んだ。また、その他多くの優秀なアカデミーの選手とプロ契約を締結ている。

 また、CEOのクリスティアン・パースロウとヨハン・ランゲ主導のもとで続々と新たな部署と役職が作られている。21年2月にはフットボール・リサーチ(Football Research)の部署が設けられ、その責任者にコペンハーゲンでランゲと友好な関係を築いていたフレデリック・レス(Frederik Leth)氏が就任した。このフットボール・リサーチという部署はプレミアリーグではマンチェスター・シティとチェルシー、アストン・ビラの3チームにしか設けられていない先進的な部署である。21年3月にはEmerging Talents & Loansという新たな選手とローンプレイヤーを扱う部署の責任者にドンカスターからアダム・ヘンシャル(Adam Henshall)氏を引き抜き任命。同タイミングでクラブOBでもあるミル・イェディナク(Mile Jedinak)がローンプレイヤー開発コーチ(Loan Player Development Coach)に就任した。

 21年5月にはイギリスでは最高レベルのトレーニング施設が開設。このトレーニング施設は19年夏にミネソタにトレーニングキャンプに行った際に影響を受けたものとされ、最新のトレーニング器具など最新設備が揃っている。詳しくは下記の動画をご覧ください。

アカデミーの大幅な強化~国内最高レベルの有望株たち~

 18年夏にナセフ・サウィリス氏らが共同オーナーとなって以降、アストン・ビラはアカデミーの選手たちも大幅に強化・育成している。大きな転機となったのが19年夏、育成に定評のあるウェスト・ブロムからアカデミー責任者であるマーク・ハリソン(Mark Harrison)氏を引き抜き、アストン・ビラでも同職に就任した。その他、数名のスカウトやコーチもウェスト・ブロムから引き抜いた。元々アカデミーにはクラブの生え抜きであるイングランドU-18代表の主将を務めるアーロン・ラムジーや21年夏にトップチームへと昇格するジェイデン・フィロジン=ビデイス、16年にビラに加入していたカーニー・チュクエメカなど多くの有望株が在籍していたが、彼らに加えて多くの有望株を他クラブから獲得する。20年冬にウェスト・ブロムでマーク・ハリソンの下でプレー経験のあるイングランドU-18代表FWルイ・バリーをバルセロナから完全移籍で獲得。ちなみにバリーは一家全員アストン・ビラサポーターである。21年夏にはオランダの有望株であるオランダU-16代表DFラーマル・ボハルデ、エクセター・シティでイーサン・アンパドゥの持つクラブ史上最年少デビュー記録を更新したベン・クリシーニらを獲得している。

 既存戦力と他クラブから加入した有望株が合わさったアストン・ビラのアカデミーの選手たちは、2020-21シーズンに行われた18歳以下の選手で構成されるFAユースカップで大躍進を遂げる。18歳以下ながらその殆どのメンバーがU-23チームの主力選手であり、代表でも主力の選手が集まっている。決勝戦でリバプールU-18に2-1で勝利しFAユースカップを制するのだが、決勝を含めた6試合で28ゴールと圧倒的な攻撃力を見せつけた。FAユースカップの得点ランキング上位3位をカーニー・チュクエメカ(7ゴール)、ルイ・バリー(5ゴール)、ブラッド・ヤング(5ゴール)とアストン・ビラU-18の選手が独占。ちなみにスタメン11人のうち7人が直近のイングランドの年代別代表に選出されており、2人がオランダの年代別代表に選出されている。ローンプレイヤー開発コーチであるミル・イェディナクが熱心に彼らの試合を視察していたことを考えると、2021-22シーズン以降は多くの若手選手がローン移籍することになりそうだ。また、一部報道によると2020-21シーズン第37節トッテナム戦でトッップチームデビューを飾った19歳のフィロジン=ビデイスと17歳のチュクエメカは、2021-22シーズンにトップチームに昇格する予定である。

クラブが掲げる未来像

 21年夏の移籍情報でエミリアーノ・ブエンディアをクラブレコードの移籍金で獲得したことは、2021-22シーズンに欧州大会に出場することへの明確なメッセージであると考えられる。キャプテンのイングランド代表MFジャック・グリーリッシュに対するオファーは21年夏も多く届くことが予想されるが、クラブとしてはどれだけ大金を積まれても放出する意思は全くない。前述してきた通り、アストン・ビラというクラブは全くお金に困っておらず、新オーナーとなってからレギュラークラスの選手を1人も引き抜かれることなく着実に成長を重ねてきている。20年9月にグリーリッシュはクラブとの契約延長にサインした時に、「オーナーたち首脳陣はどれだけの野心を掲げているか、どのようにアストン・ビラを築き上げていくかを明確に示してくれた。エキサイティングな時間が待っているし、このプロジェクトの一員になれてとても嬉しい」と語っている。また、CEOのクリスティアン・パースロウは「ジャックは我々マネジメント陣にとって象徴だ。我々は彼を中心にトップチームを築いていくことを決意している。」と語っており、グリーリッシュを中心として欧州大会へと出場することをプロジェクトとしている。また、その他の選手が契約延長、もしくは新加入選手が加入した際にも必ずこの「オーナーの野心」と「クラブの将来掲げるビジョン」について語っている。
 
 21年夏、4年半在籍していたニール・テイラーが退団する際に「クラブは素晴らしいポジションにあり、オーナーはフットボールの頂点に立つことを計画している。」と語った。資金力があり、明確な野心があるオーナー陣、それを理解しているCEOやスポーツ・ダイレクター、クラブを愛する監督とキャプテン、クラブの将来掲げるビジョンに賛同している選手たち、そしてクラブを支えるサポーターたち、クラブに関わる全ての人々が同じ方向を向いているチームというのは世界的にも珍しいだろう。それの象徴が2-1で勝利した2020-21シーズン最終節チェルシー戦だろう。アストン・ビラのサポーターたちは同時間帯に行われた他のどの会場のサポーターよりも大きな声援を送り、翌週にUEFAチャンピオンズリーグを優勝するチェルシーを完全アウェイの状況に追い込んだ。近年「古豪」と呼ばれてきたアストン・ビラが、再び「強豪」と呼ばれる未来はすぐそこまで来ている。



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