MF三竿健斗(鹿島アントラーズ)の放ったクロスに反応したのはFW中島翔哉(ポルティモネンセ)だった。合計出場時間が90分にも満たない若手二人でラストプレーで同点に追いついた日本代表は、マリとの親善試合をドローで終えた。試合後、FW本田圭佑は「負けなかったことが収穫」と述べたが、本番3ヶ月前の出来として及第点には至らない。SB酒井宏樹やCB吉田麻也ら主力の半分が不在だった点は指揮官に対する情状酌量の余地があるものの、何が起こるかわからない大会期間を考慮すればそうも言っていられない。
GK中村航輔(柏レイソル)、RSB宇賀神友弥(浦和レッズ)、OMF森岡亮太(アンデルレヒト)、OMF大島僚太(川崎フロンターレ)、LWG宇佐美貴史(デュッセルドルフ)がスタメンとして抜擢された。立ち上がりからマリの出足の鋭さや伸びてくる足のタイミングに苦慮しながらも、宇佐美、RWG久保裕也(ヘント)がサイドバックに対してフォアチェックを仕掛けてラインを下げさせる。森岡と大島が並列でパスをさばいた序盤から相手ディフェンスラインが下がると、4-1-3-2のフォーメーションへとスタイルを変えた。森岡がCF大迫勇也(ケルン)と共にセンターバックに対してチェックする。中盤と前線を大島がつなげ、後方からのボールを必要なスペースへボールをつなげた。
しかし確実に問題は起きていた。久保がフォアチェックを仕掛けた反面、酒井宏樹ならばとっているポジションに宇賀神がおらず、ルーズになったボールの回収役が不在になった。この後指示を受け、前目のポジションを取り出すも、右サイドバックのスペースがポッカリと空いてしまい、進んで相手に餌を分け与える格好となってしまった。テンポの異なる相手に対し、普段と同様のチャージを仕掛けた宇賀神だったが、相手も逆に掴みきれず、危険なファウルとなってしまう。
一方で、LSB長友佑都(ガラタサライ)も、宇佐美との連動でサイドバックのポジションを空けてしまっていた。MF長谷部誠のコントロールや大島の配球があってこそ成立していた展開だった。しかし前半33分、大島が筋肉系のトラブルによってMF山口蛍(セレッソ大阪)と交代。これにより、両サイドのルーズボールに対する処理能力は上昇したものの、パスの出どころがなくなってしまった。過去の代表ならば、森重真人のフィード力がここで活きてくる展開なのだが、CB昌子源(鹿島アントラーズ)、CB槙野智章(浦和レッズ)共に、ベストなタイミングでフィードを供給することができていなかった。
PKは全てが積み重なった結果だ。宇賀神のパフォーマンスだけを責められはしないが、強いていえば、全体のコミュニケーションに問題があり続けた。久保がチェックを続けるならば、宇賀神は連動しなければならない。裏を突かれて戻る前に、他選手のカバーリングが何故なかったのか。また、宇賀神の代わりに一枚前でフォローする選手がいてもよかった。両サイドがつるべの動きで連動していれば、方向性も見て取れたはずだ。すべての結果がエリア内でのタックルに繋がった。
後半からRSB酒井高徳(ハンブルガーSV)が出場したことを受け、「何故最初からそうしなかったのか」との疑問符も少なからずわいたが、中島が宇佐美、長谷部が三竿健、森岡が小林悠(川崎フロンターレ)と交代したことで、事態は一層混迷の道へと進んでしまった。
マリ戦における戦略の一つは、中盤二枚の捌き屋にあった。小林悠が絶妙な動き出しを見せ続けたもののボールは出てこない。誰がどうしたいのかがバラバラに作用した結果、ポジショニングに定評のある三竿が明らかに「うろうろ」してしまった。この試合別の意味で注目の的だった「鳩たちの群れ」同様の漂ったが、結果として得点の産物となった。
FW本田圭佑(パチューカ)の投入は全ての決定打になってしまった。マリ側も目新しいアクションをすることなく、つつがなくクローズしに向かった。日本代表にも何かを打破したい気を感じることがあったが空回りし続けた。
2人を除いては。
宇佐美貴史、久保裕也と明らかに異なったのが、中島翔哉だった。彼がボールを持ち、動き出す軌道は昨今叫ばれる『ハーフスペース』をうまく活用した形だった。最後に飛び込むまでの動きも、まさに相手のエリアを突いて侵入したことで生まれている。
もうひとりが、クロスを上げた三竿健斗だ。リーグや過去のアンダー代表の映像を見ても、相手から奪って縦につける動きが歴代屈指レベルで速く、上手い。そしてポジションをうろついた結果の産物として生まれたのが、小林悠や中島翔哉の動きだった。絶妙な対角ポジションへの動きがあったからこそ、彼は腰を捻ってカーブをかけ、抜群のスペースにボールを放つことができた。「負けなかったことが収穫」だったがそれ以上に、新世代独特のサッカー戦術観が、今まさに日本代表をモダンモデルへと引き上げようとしている点にポジティブさを感じた点は尊ぶべきだろう。
最後に、弊媒体としてチェックしているデータを紹介しつつ、中島翔哉と三竿健斗の「視点」について触れたい。
オレンジで表しているのが通称『ハーフスペース』と呼ばれるエリアだ。前半の宇佐美や後半の本田はまさにウイングのポジションであり、サイドに相手DFを抑え込んだり、クロスや、自らの仕掛け起点になるため、タッチラインを活かしたポジショニングとなる。しかし、このハーフスペースは、ウイングにもセンターにもポジションができるため、相手DFとすれば、ボランチ・サイドバック・センターバックの誰が対応すべきかハーフテンポ、ワンテンポずれてしまう。
前半で言えば大島も同スペース内から捌いており、技術や戦術眼に関しては一流のものを秘めていることもわかる。三竿は
うろつく時間が長く、ピッチ全体を見渡せたからこそ、何度もハーススペースから縦へと突破を試みた中島にDFが二人ついていることが距離をおいた上でも理解ができていたのかもしれない。小林悠もピッチを見渡した上でのアクションは素晴らしかったが、配球役とのコンビネーションが今後の鍵となるだろうか。
中島はこのスペースからのアクションに終始した。縦・右・斜め、DFの脇をどのように活用するか。武器である左45度からのミドルも封じて、「俺ならやれる」ここでDFに捉えられてもできるのだと意思を表明し続けていた。意思を発した中島とチェックしていた三竿によってもたらされた同点ゴールが、どうにか日本をつなぎとめた。
まだ次のウクライナ戦もあるが、チームの骨格はまだ出来上がっていない。ただし、世界基準で考えるのであれば、現代的戦術にアジャストできる選手の抜擢こそ、勝利や得点への鍵となるのではないだろうか。