新生森保ジャパンの幕開けは、『リオ世代以下の期待すべき選手たち』
A代表版森保ジャパンの旅路が始まる。東京五輪代表チームがアジア大会決勝進出を決めた翌日に発表された23名のメンバーには、ロシアW杯に選ばれた選手の殆どが選外となり、東京世代海外組を始めとする、リオ世代中心的な新たな旅路を予感させた。
特にMF堂安律、MF伊藤達哉、DF冨安健洋の3名は新時代の旗手として把握すべき選手たちだ。MF本田圭佑やMF長谷部誠を中心とした時代は終わった。新たな物語を紡ぐ森保ジャパンの戦術と戦術に見合った今回招集の選手たちを紹介したい。
基本守備陣形=パノプティコン
パノプティコンとは、イギリスの功利主義哲学者、法学者であるジェレミー・ベンサムが考案した刑務所の囚人監視施設の方式であり、一望監視施設と訳されるが、サッカー風にアレンジした対岸式監視要塞を森保ジャパンの守備システムは可能とする。メインキャストはCF、DMF、CBの中央3ポジションだ。CFは最前線で数秒間プレスを仕掛けるが、プレスバックしすぎず監視要塞と化す。日本側では最前線だが対戦国の最終ラインと同義であり、守備ラインの呼吸でボールの動向を察知し、後方へ指令を出す。
中央に陣取るCBは最終ラインから敵陣最前線の動きを読み取り、自陣の守備網を構築するが、主な指令はDMFに出される。パノプティコン型実践に最も必要な存在が『門番型』と称されるタイプのボランチだ。MF井手口陽介がファイター型、サンフレッチェ広島のMF稲垣祥がスタミナ型、日本代表MF山口蛍がフォアチェック型とすれば、フランス代表MFエンゴロ・カンテはそれらを兼ね備えたハイブリッド型であり、目下ボランチのワールド・スタンダードとなっている。ただし、3バックが再流行の兆しを見せている世界観においては、最終ライン前での防波堤に呼び込んで回収する『門番型』はポストモダンな考え方だ。CFがプレスバックせず前線からの”指令”塔とナルのも、門番にスムーズに受け渡し、カウンターチャンスを窺う理由も含まれる。次点として門番を回避にサイド活用策を敷いてくる。しかしこのパノプティコン型は中央から離す点が最も秀逸な形となる。
守備陣形=サイド防御型
WBの動きによって3バックの外堀フォローを可能とする型は、「パノプティコン」として中央のCBを動かさず、より統率を深めるためにも重要な戦術一つとなる。当該サイドよりのWBとサイドCBがラインと四面でノッキング。ダイアゴナルの動きに門番型DMFが対応することで封殺。指揮系統を予め循環させ、中央のCBがニア、逆サイドのCBがファーサイドの空中戦を担う。ペナルティーサークル付近を指す通称『14ゾーン』にストーンとしてコントロール役を介在させれば、ポジティブトランジションへの対応力を高められる。
攻撃陣形=時間を生み出す可変型
森保ジャパンの攻撃戦術を知らない方でも、西野ジャパンの戦術を見た経験のある方は多いはず。いくらフォーメーションに違いはあれど、諸外国をも唸らせた『ハーフスペース理論』は西野イズムではなく、『森保コーチ』が編み出したものだ。結果としてやることは変わらない。ワントップ+2シャドー+WBを基本とするが、各サイドのセンターバックが一枚持ち上がり、後方からの組み立てに関与することで前線の枚数は3、4、5枚と対応を可能とさせる。状況別でDFの間をついた攻撃を行う属人的な方法論が攻撃の核となる。
攻撃陣形=ハーフスペース活用方法
『ハーフスペース』はピッチを縦5分割した際に中央と両サイドラインの間に生まれる中間レーンを指す。ロシアW杯では、香川真司が得たPKや乾貴士の2得点、本田圭佑、原口元気いずれの得点もハーフスペースから生まれでたものだ。3バックでも4バックでも、サイドバックとセンターバックの間に生じてしまうスペースにはDF同士の曖昧な心情的ギャップが生まれてしまう。一発で仕留められずとも、何度も攻め続けてほころびを生じさせるという点もある。
守備陣形=非属人的守備戦術/ポジショナルプレー
ここまで見てきたとおり、森保ジャパンの守備戦術は通称”ポジショナルプレー”だ。パノプティコンで前後眺望型の監視体制を敷いたとしても、個人戦術ではなくチームの戦術を体現できる戦術理解度に優れた選手が起用される可能性が高い。
CFと中央のCBは指令的役目、DMFは門番型インターセプターである点が必要だ。CFは小林悠、中央のCBには冨安健洋や、DMFには三竿健斗の重用が見込まれ、今後はそれぞれ上田綺世、中山雄太、守田英正らの登用の可能性もある。
コントロールタワーとなるCMFは大島僚太を筆頭に人材が豊富、RCB、LCB、WB、シャドーは攻撃的な流動性も関わるため、ポジショナルプレーかつシチュエーションプレーを可能とする人材が必要だ。
攻撃陣形=属人的攻撃戦術/シチュエーションプレー
4バック・3バック・5バックいずれの状況にも対応できる、ハーフスペースを活用できる状況の取捨選択能力に長けた選手が必須だ。中島翔哉・堂安律・伊藤達哉が旗手であり、西村拓真、旗手怜央、郷家友太らの追随もある。WBは上下動と逆サイドの動向を気にかけた上で行動ができる必要性がある。シャドー・WB・RSB・LCBは自チームを変化させていくための可変戦術を担う流動的な攻撃への最重要人物へと昇華した選手から固定されていくことだろう。
招集メンバーの特性
今回招集のメンバーではRCB適正が3名存在し、中でも遠藤航が注目となる。中央のCBやDMFをこなすこともできるが、流動的なポジショニングで組み立て役もこなせるとなれば、RCBをスタートポジションとすべき存在だ。門番型DMFの三竿健斗、コントロールタワー青山敏弘・大島僚太、ハーフスペース活用型シャドーの中島翔哉、堂安律、伊藤達哉も興味深いが、LWBとLSB、LCBを一人でこなすことができる車屋紳太郎にも注目してほしい。
逆に、インテリジェンスを見せて次回の招集にも繋げたいのは南野拓実、杉本健勇、伊東純也、室屋成だ。それぞれ当てはまるポジションはあるものの、攻守の動きが気がかりであり、森保型のスタイル習得が鍵となる。
追加招集の候補
本日9月1日のアジア大会後に見込まれる追加招集候補は杉岡大暉が筆頭格だ。LWBが車屋一人であり、杉岡もLWB、LSB、LCBの3ポジションをこなすことができる。同様にDMF、RSB、CBをこなせる原輝綺も候補に入れたいところだが、今回はRCBが3名も招集済であり可能性は薄い。森保スタイルと類似したミシャスタイルの元でポジションを掴んでいるMF三好康児や別種だがベガルタ仙台渡邊監督の元でLCBやDMFのポジションを掴む東京世代の森保ジャパンの中核を成す板倉滉の二人にも可能性があるのではないか。