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セカンドインパクトシンドローム|命の危険のある2度目の脳震盪

”2試合連続”でGK中村航輔に起きた頭部への強打

 有望な一人の選手寿命を消費してはならない。若手の筆頭株、ロシアW杯後の代表守護神との形容は、ユース時代はもちろん、2015年のアビスパ福岡移籍後からより鮮明になったGK中村航輔の成長過程を見てきた我々だからこそ、勇気を持って止めるべきなのではないか、と思う。

 左サイドをMF東慶悟に突破されたSB亀川諒史は絞る動きで対応するも、振り切られて高速クロスをあげられる。柏レイソルの守護神中村航輔は即座に反応した。同時に、CBパク・ジョンスが昨年の同僚FW富樫敬真に対応するためボール処理に動く。パクの足にあたったボールは無情にもゴールへ吸い込まれるが、その瞬間ピッチ上に言葉にならない声がこだました。

 ロシアW杯の中断期間を経て、7月18日に明治安田生命J1リーグが再開された。平日開催となった今節だが、W杯明けということもあり各地とも気合が入っていた。CB昌子源やMF大島僚太といったW杯からの帰還組を見ることができるかもしれないとの想いと、MFイニエスタ、FWフェルナンド・トーレスといったビッグネームの来日にFW大久保嘉人、FWハーフナー・マイクなどの移籍組も次節より出場可能という期待感があいまっていた。
 とりわけ、CB遠藤航とCB槙野智章で決めた浦和-名古屋(3-1)戦や、代表経験こそないもののSB山中亮輔が代表レベルと遜色のない他の追随を許さないレベルのプレーを披露し、大味となった仙台-横浜FM(2-8)戦は大きな歓声に湧いた。一方で序盤にCBファビオが退場したことでペースが乱れた広島-G大阪(4-0)戦やじりじりと競り負ける姿が印象的になった清水-C大阪(3-0)戦は、代表戦士であるGK東口順昭やMF山口蛍を双方に擁するも敗戦してしまった。
 ただし、その場にいた者すべてが息を呑んだのは柏レイソルvsFC東京の一戦だ。

 ボール処理のために飛び出した中村航輔の頭は、FC東京FW富樫敬真の膝のハードヒットを受けてしまう。オウンゴールにうなだれる選手もいたが、FC東京MF高萩洋次郎は冷静だった。ピッチ上で動かない相手守護神に反応を求めるが虚ろ。すぐさま審判・医療チームの出動を要請した。ベンチではGK桐畑和繁が準備を進める。2ヶ月前柏レイソルそして中村航輔自身が体験してしまった事象と全く同様の光景が広がっていた。
 救護班は中村航輔をピッチ外へと運び、病院へと移送した。





セカンドインパクトシンドロームの実例

 短期間に二度の脳震盪を起こしてしまうことを『セカンドインパクトシンドローム』という。最近のスポーツ界においても、MF香川真司(当時マンチェスター・ユナイテッド)やFW原口元気(当時デュッセルドルフ)、プロ野球の青木宣親(当時MLB・ジャイアンツ)らがこの問題を抱えた。香川は一週間で復帰する軽度のもので後遺症も残らなかったが、原口や青木は一定期間試合出場を見送られた。しかし、この症候群は、最悪死に至ることもある。
 よりハードな競技であるラグビーの場合、脳震盪を起こした選手だけでなく、起こした疑いのある選手も即座に退場となっており、起こしていた場合には3週間試合出場ができない。特に、1年間に2回以上既往のあるアスリートは、さらなる外傷や回復遅延防止のため、プレー復帰の前には脳震盪治療経験のある医師の診察受診を必要としている。もちろん、協会やオフィシャル、チーム・スタッフ・関係各位は日常生活に支障が生じないよう注意することが必要となる。

 では、本件はどうか。中断期間前の第15節名古屋グランパスエイト戦でFWとの空中での競り合い回避を選択した中村は、それでも起きた接触によって頚椎から垂直落下してしまった。即座に名古屋市内の病院に運ばれ一時的に入院した10日後にはロシアW杯代表メンバーに選出された。ガーナ戦こそ出場は回避したが、スイス戦はベンチ入りし、パラグアイ戦に至ってはゴールマウスを守った。発生後わずか3週間の出来事だ。本大会での出場こそならなかったものの、2ヶ月の間に軽度のものではなく、ハードな事象を二度起こしている。三度目は、プロ人生の中で発生させても選手生命の危機すらあるものだ。早期回復は望むが最大解決を望むことが先決だ。
 そして我々は、W杯代表クラスの面々ですら2014年の香川、2017年の原口、2018年の中村と定期的に発生してしまっていることから学んでおくべきだ。脳震盪の怖さと勇気ある撤退。「もし、軽度なら…」と望む部分があったとしても、それ以上あるのは「今シーズンを休んでもいいのではないか」という憂いに似た願いだろう。