W杯の決勝やチャンピオンズリーグといった世界の大舞台で活躍できる選手は稀だ。出場することすら難しいこれら大会で、彗星・綺羅星の如く活躍する若手選手が現れる。その中でもイングランド・プリミアリーグに所属する選手から誕生するケースが少なくない。最近でも、マンチェスター・ユナイテッドのマーカス・ラッシュフォードや、スコット・マクトミネイなど毎年のように神童が現れている。しかし、その神童たちが必ずしもブレイク後、活躍できるとは限らない。今回は若い頃から期待されたが、”失敗”してしまった選手10名を取り上げてみよう。
・フェデリコ・マケダ
国籍: イタリア
Pos : FW
年齢: 26歳
過去所属クラブ: マンチェスター・ユナイテッド、サンプドリアなど
現所属: ノヴァーラ(セリエB)
マケダを一躍有名にしたのは、17歳で迎えた2009年4月5日のアストン・ビラ戦だ。1-2のビハインドで迎えた61分、ナニとの交代でピッチに入りプレミアリーグデビューを果たすと、80分にクリスティアーノ・ロナウドのゴールでユナイテッドが追いつく。試合終了かと思われた後半アディショナルタイムにドラマは待っていた。ペナルティエリア内でギグスからパスを受けたマケダが、見事なトラップで反転し右足を振り抜くと、これがゴール右隅に決まりユナイテッドが土壇場での勝ち越しに成功。勝ち点3を獲得する活躍は、彼の名を一気に知らしめた。
しかし、マケダの伝説はこれでは終わらなかった。続くUEFAチャンピオンズリーグでは出番が訪れなかったものの、4月11日のサンダーランド戦でも1-1の状況から途中出場し、交代から1分足らずで2試合連続決勝点をあげてしまったのだ。
一躍時の人となったマケダだが、彼のキャリアの最高潮は一瞬にして終わってしまう。その後、伸び悩みかレンタル移籍を繰り返した後、2014年夏にはカーディフに完全移籍。しかし、ここでも活躍出来ず、2016年夏には無所属になってしまった。同年12月にテスト生を経て、ノヴァーラに入団し、現在も在籍している。
ノヴァーラではこれまで47試合に出場し10ゴールをマークするなどまずまずの活躍を見せているが、かつて多くのユナイテッドファンが期待した神童は、再び欧州のトップリーグでプレーする機会があるだろうか。
・アンデルソン
国籍: ブラジル
Pos : MF
年齢: 29歳
過去所属クラブ: マンチェスター・ユナイテッド、フィオレンティーナなど
現所属: 無所属
2005年にに行われたFIFA U-17W杯でブラジル代表として準優勝を果たし、最優秀選手賞を受賞したアンデルソンは、勢いそのままにポルトを経てマンチェスター・ユナイテッドに加入する。加入初年度からプレミアリーグへ適応し、リーグ優勝とUEFAチャンピオンズリーグの2冠に大きく貢献した。
しかし、そこからレギュラーに定着することが出来ず伸び悩み、15年冬にフリーでインテルナシオナルへと移籍した。同チームで2シーズンを過ごし、昨季はコリチーバへとレンタル移籍するもシーズン終了後に構想外を言い渡されてしまった。
かつて、世代を代表した神童は、現在無所属という屈辱を味わっている。ポテンシャルは間違いない選手なのでJクラブが獲得に乗り出しても面白いが…。
・ラベル・モリソン
国籍: イングランド
Pos : MF
年齢: 25歳
過去所属クラブ: マンチェスター・ユナイテッド、ウェストハム、ラツィオなど
現所属: アトラス(メキシコ)
かつてマンチェスター・ユナイテッドを長期に渡って率いたアレックス・ファーガソン氏が、自身の伝記の中で「今まで見た選手の中で一番の才能の持ち主だった」と言わしめた選手が、現在メキシコのアトラスでプレーするラべル・モリソンだ。
プレミアリーグのファンであれば一度はその名を聞いたことがあるだろう。その才能は、育成の名門のユナイテッドユース内でもずば抜けており、当時一緒にプレーしていたポグバ、リンガード、ヤヌザイらが『彼には敵わない』とモリソンに一目置いていた。
しかし世間的には、天才的なプレーよりもピッチ外での行動が目立ってしまった。ユナイテッドで一度もプレミアリーグに出場することなく、12年冬に惜しまれながらもウェストハムへと放出された。移籍後も、ピッチ外の問題が収束せず、14年には女性への暴行が原因で逮捕されている。15年にはウェストハムと契約を解除され、フリーでラツィオへと移籍。
イタリアへと環境を変えたが、わずか8試合しか出場できず、昨夏に現在所属しているアトラスへレンタルで放出された。アトラスでは一定の出場機会こそ与えられているが、シーズン1ゴールでは物足りない。未完の天才はいつその才能を開花させられるか。
・ネイサン・デルフォンゾ
国籍: イングランド
Pos : FW
年齢: 27歳
過去所属クラブ: アストン・ビラなど
現所属: ブラックプール(イングランド3部)
かつてイングランドのユース代表で、50試合以上に出場しているアストン・ビラ出身の元神童。その名は、09-10シーズンの4月18日に行われたポーツマス戦でゴールを決めた頃によく聞かれるようになった。
デルフォンゾは186cm・78kgとかつてビラで活躍したドワイト・ヨーク、ヨアン・カリュー、ダレン・ベント、クリスティアン・ベンテケと同様に恵まれた体格の持ち主としてブレイク間違いなしと考えられていた。しかし、レンタル移籍の武者修行中に結果を残すことが出来ず、14年夏にブラックプールへと放出された。その後ブラックバーンやベリー、スウィンドンと2部や3部のクラブを転々とし、昨冬にブラックプールへと復帰している。今季は3部で31試合に出場するもわずか4ゴールに留まっている。殻を破ることのできる日はくるだろうか。
・エマヌエル・フリンポン
国籍: ガーナ
Pos : MF
年齢: 26歳
過去所属クラブ: アーセナル、ウファなど
現所属: エルミス・アラディプ(キプロス)
アーセナルの下部組織出身のフリンポンはアレックス・ソングや、マイケル・エッシェンとも比較され、アーセナルのトップチームを率いるアーセン・ヴェンゲルにも非常に期待を受けた逸材。2008年9月23日に行われたリーグカップ、シェフィールド・ユナイテッド戦に若干16歳で強豪クラブのベンチ入りを果たした。しかし、度重なる大ケガの影響もあり、アーセナルでは定位置を掴むことが出来なかった。
非常に粗いプレースタイルで知られるフリンポンだが、素行面も問題視されており、11-12シーズンのリーグカップ5回戦のマンチェスター・シティ戦に敗れると、ピッチ上で元同僚であるサミル・ナスリと言い合いを始め、ロッカールームへ戻る間で殴り合いをしたとも報じられた。さらに過激なSNS投稿で話題になることも少なくはなかった。
その後、出場機会を求めてイングランドの下部クラブへレンタル移籍を繰り返すも結果は残せず、14年冬にバーンズリー(当時2部)へ放出された。そこでも、出場機会を掴むことが出来ず、チームが3部へ降格したこともあり、同年夏にウファ(ロシア)へと移籍した。ウファでも多くの出場機会を得ることが出来ず、16年夏に契約解除をし退団。
同年夏に加入したロシアのアルセナル・トゥーラでも、4試合の出場で終わり、わずか半年でエシルストゥーナ(スウェーデン)へ移籍。昨夏、現所属のエルミス・アラディプに加入した。キプロスの地でようやく定位置を掴んだかと思われたが、昨年12月の試合中に負傷し現在も離脱中である。プロデビューから10年の歳月が流れた2018年こそ、再帰をかけたシーズンにできるだろうか。
・ジェームズ・ヴォーン
国籍: イングランド
Pos : FW
年齢: 29歳
過去所属クラブ: エバートン、サンダーランドなど
現所属: ウィガン(イングランド3部)
同じくエバートンユース出身のFWウェイン・ルーニーとも比較されていた神童を一躍有名にしたのは05年4月10日のプレミアリーグ、クリスタル・パレス戦だろう。後半途中から出場したヴォーンは、87分に16歳271日で初ゴールを記録しリーグ最年少得点記録を更新した。この記録は13年経過した現在でも破られていない。
エバートンで出場機会を掴むことが出来ず、イングランドの下部クラブへレンタル移籍を繰り返し、11年夏に当時プレミアリーグへ昇格したノーリッジへ完全移籍。大きな期待を背負っての加入だったが、わずか6試合の出場に留まり、13年夏にハダースフィールド(当時2部)へ放出された。
その後バーミンガムを経て16年夏にベリー(当時3部)へ加入。16-17シーズンはチームは19位に終わったものの、ヴォーン自身は得点ランキング2位となる24ゴールをあげ、昨夏にチャンピオンシップへ降格したサンダーランドへ個人昇格を果たした。
サンダーランドでは23試合に出場するも、わずか2ゴールと期待を裏切り、半年でウィガンへ放出された。現在所属しているウィガンでも8試合でわずか1ゴールと、天賦の才を活かしきれておらず、かつてのプレミアリーグ歴代最年少記録保持者は現在、イングランド3部で路頭に迷っている。
・ニック・パウエル
国籍: イングランド
Pos : MF
年齢: 23歳
過去所属クラブ: マンチェスター・ユナイテッドなど
現所属: ウィガン(イングランド3部)
日本代表の香川真司と共に、マンチェスター・ユナイテッドの入団会見を行ったことで知られるパウエル。11-12シーズンはユース時代から過ごしていたクルー・アレクサンドラ(当時4部)で、チームトップの14ゴールを挙げ3部への昇格へ大きく貢献。
この活躍をみた当時のユナイテッド監督アレックス・ファーガソンが才能に惚れ込み、4部の選手としては破格の300万ポンド(約4.5億円)でオールド・トラフォードへとやってきた。当時18歳だったパウエルは、ミドルシュートや飛び出しからゴールを狙う技術に優れたMFとして期待されていた。
しかし、層の厚いユナイテッドで定位置を掴むことは出来ず、ウィガンやレスター、ハル・シティへとレンタル移籍を繰り返し、16年夏にウィガンへ放出された。16-17シーズンは、後半途中から出場しセットプレーだけでハットトリックの活躍を見せるなど奮闘し、チームトップの7ゴールを叩き出したが惜しくも降格の憂き目にあってしまう。今季は3部で29試合に出場し12ゴールを挙げるなどの活躍をみせ、チームを現在自動昇格圏手前の3位に導いている。
・ヨレス・オコレ
国籍: デンマーク
Pos : DF
年齢: 25歳
過去所属クラブ: アストン・ビラなど
現所属: オールボー(デンマーク)
かつてチェルシーやインテルなど多くのビッククラブが獲得に乗り出していたコートジボワール系デンマーク人ディフェンダーはまるでジェットコースターのような浮き沈みを経験した。
圧倒的な身体能力とCB離れしたスピードで1対1に強いとの触れ書きから、アストン・ビラで若手ながらポジションを掴み、コンスタントにA代表にも招集された。14-15シーズンには多くのビッククラブが彼に興味を持ち、確実にステップアップを遂げる思われていた。
しかし、15-16にビラがチャンピオンシップ(イングランド2部)へと降格が決まると彼の評価も大幅に下落。
16-17シーズン開幕直後のEFLカップのルートン(当時4部)戦で、信じられないオウンゴールを決めるなど低調なパフォーマンスを見せたことで評価は地まで落ちた。
この試合で当時のディ・マッティオ監督の構想外となったオコレはコペンハーゲンへと放出された。しかし、コペンハーゲンでも構想外となったため、オールボーへ移籍し、ようやく定位置を掴んだことで下がり続けた評価を食い止めることができた。わずか2年余りでここまで評価が落ちるのは珍しいことだ。
ようやく復活の兆しを見せているオコレは、再びA代表に選出され欧州のトップリーグに復帰することが出来るのか注目だ。
・ジャック・ロドウェル
国籍: イングランド
Pos : MF
年齢: 27歳
過去所属クラブ: エバートン、マンチェスター・シティ
現所属: サンダーランド(イングランド2部)
かつてイングランドのユース代表でキャプテンを務めていた元神童の経歴も異例だ。
エバートンユース出身で、UEFAカップのAZ戦に16歳284日でトップチームデビューを飾ると、若手ながらポジションを掴み、12年夏にマンチェスター・シティへと移籍。しかし層の厚いシティでは2シーズンでわずか25試合の出場に留まり、14年夏にサンダーランドへと移籍をする。
この時の経験から「若い選手は試合に出場できるクラブにいるべきだ」とインタビューで語っている。サンダーランドではケガに苦しみながらもまずまずの出場機会を得た。しかし、なかなか勝利に貢献することが出来ず、自身の先発したリーグ戦で39試合の連続未勝利が続き、17年2月4日のクリスタル・パレス戦まで実に3年8ヶ月間も勝利を挙げられなかった。これはプレミアリーグ史上最長の先発未勝利記録である。16-17シーズンにサンダーランドはプレミアリーグで最下位となり、チャンピオンシップ(イングランド2部)へと降格したが、ロドウェルは残留した。その理由として、2部でも約4.5億円の年俸を貰える契約となっていたことがあげられる。
これだけの年俸を貰いながら出場は2試合で勝利からも見放されており、昨年11月にサンダーランドの指揮官に就任したクリス・コールマン監督のもとでは、完全に構想外となっている。今年に入りサンダーランドU-23の試合には出場しているようだが、それ以外の情報は一切ない状況だ。
ちなみに今季サンダーランドはロドウェルのキャリアの低迷と共に、降格初年度ながらシーズンのほとんどを最下位で過ごしている。ロドウェルはこの構想外の状況からみて、サンダーランドの残留の救世主となることはないだろう。
・マイカー・リチャーズ
国籍:イングランド
Pos : DF
年齢: 29歳
過去所属クラブ: マンチェスター・シティ、フィオレンティーナ
現所属: アストン・ビラ(イングランド2部)
上記のロドウェル同様、イングランド2部で構想外となっているもう一人選手を最後に紹介したい。かつてマンチェスター・シティユースの最高傑作とも称されたマイカー・リチャーズだ。
プロレスラーのような強靭な肉体の持ち主で、スピード、パワー、スタミナ、そしてリーダーシップを兼ね備えるまさに完成された選手であった。しかし、シティでは度重なるケガで伸び悩み、15年夏に現在所属しているアストン・ビラに加入した。この年、ビラは主将を務めていたファビアン・デルフやエースのクリスティアン・ベンテケを放出しており、リチャーズに対する期待はとても大きいものだった。
加入初年度から監督を務めていたティム・シャーウッドからキャプテンに任命されたものの、パフォーマンスは全盛期からの著しく低下しており、CBを組んだジョレオン・レスコットと共に酷評された。シーズンわずか3勝の成績では残留を果たすことはできず、イングランド2部へ降格。決定後、リチャーズ自身は移籍の噂が流れたものの、残留を決意した。しかし、ここからの低迷ぶりがさらにリチャーズのキャリアに泥を塗る。
16-17シーズン序盤のディ・マッテオ政権ではメンバー入りを果たしていたものの、10月に就任したスティーブ・ブルース政権では完全に構想外に。ブルースの初陣となった10月15日のウルブス戦こそ先発出場を果たすも、負傷交代で退場後、今日まで出場機会は一度も訪れることがなかった。今季に関してはEFLカップの第3ラウンドのミドルズブラ戦のみベンチ入りを果たしたが、それ以外全ての試合でメンバー外に。すでに公式戦で最後にプレーしてから500日以上が経過するが、彼はまだアストン・ビラの選手だ。クラブでジョン・テリーに次ぐ高給取りだが、放出されることなく来夏に迎える契約満了まで残留するという。
出場していないリチャーズだが、若手選手に与える影響力やその求心力は計り知れなかった。現在ビラはアンドレ・グリーン、キーラン・デイビスなど下部組織出身のイングランドU-20代表選手を多く抱えているが、彼のサッカーに対するプロフェッショナルな姿勢が非常に良い影響を与えているようだ。
現在、彼はトップチームの練習もフルメニューでこなしており、紅白戦にも出場している。近々、リチャーズの姿をピッチでみることが出来るかもしれない。もしくは、このまま構想外が続けば、プレーすることなく若手選手の見本の立ち位置となってしまうが、来夏までの契約をどう全うするのだろうか。