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浅野拓磨から考える日本代表グループステージ突破戦術(前編)

 8月31日、ロシアW杯アジア最終予選第9節、ホーム埼玉スタジアムにオーストラリア代表を迎えたサッカー日本代表は、これまでの代表を支えてきたFW岡崎慎司(レスター/イングランド)、MF本田圭佑(パチューカ/メキシコ)、MF香川真司(ドルトムント/ドイツ)をスタメンから外し、大抜擢したリオ五輪世代のFW浅野拓磨(シュツットガルト/ドイツ)とMF井手口陽介(ガンバ大阪)が攻守に躍動、さらに2選手ともが得点するなど、ハリルホジッチ監督の粋を結集した戦術がハマり、2-0で勝利。W杯進出が決定した。



 決勝点となる先制点を決めた浅野だが、コンスタントに出場経験を積んだわけでもない。本田やFW久保裕也(ヘント/ベルギー)といったライバルたちと渡り合うところから始まった。オーストラリア戦もプロセスの一つにすぎないかもしれないが、11月14日、欧州遠征のベルギー戦においてスタメン出場したのもまた浅野だった。オーストラリア戦の記憶が新しいから、「浅野拓磨」への納得感も感じるが、本田・久保でないのは何故か。それはベルギー戦前半の日本代表の戦術ではっきりした。ロシアW杯の日本代表のメイン戦術は【浅野拓磨】である。今回はハリルホジッチの本番照準に合わせた戦術観と合わせながら紐解いていく。

【ベルギー戦内の日本代表戦術】
 前半から両ウイングがハイプレスを仕掛けると、攻守のスイッチャーになったのは代表初先発のMF長澤和輝(浦和レッズ)。浅野とFW乾貴士(エイバル/スペイン)、FW大迫勇也(ケルン/ドイツ)がDFにプレスを掛けると、パスコースを井手口が限定。限定されたパスコースに長澤が入り込んでインターセプトし、直接・間接的に浅野へとつなげていた。
 では、プレスを掛け、ボールを奪った後の浅野の動きはどうか。裏に抜ける動きの徹底化を図っていた。ただ、歴代の代表FWと異なるのはポジションのとり方だ。半身の間合いでスペースに半歩早く入ろうとするポジショニングではなく、CBフェルトンゲン(トッテナム/イングランド)に対し、バスケのスクリーンアウトの要領で背中で押さえ込んだ。フェルトンゲンは対応に苦慮。手で押せばもちろんファウルだが、自らが前に出てしまえば、広大な裏のスペースを突かれてしまうだけ。日本代表側のフィードコントロールが高ければ、一体何点取れていたことか。
 スカウティングの妙技もあっただろう。ベルギー代表は右サイドムニエ(パリ・サンジェルマン/フランス)が出場する試合では右からの攻撃割合が高く、SB長友佑都(インテル/イタリア)が対応。左サイドに穴をあけることはピンチを生み出してしまうことにつながる。右サイドは、ブラジル戦でも圧巻のディフェンスでFWネイマール(PSG/フランス)を封じ込めたSB酒井宏樹(マルセイユ/フランス)がMFシャドリ(WBA/イングランド)を封じつつ、浅野のケアまで行えた。

 一旦ここまでを振り返ろう。

【相手陣内でのディフェンス】
1.前線からハイプレスでボールを奪取
2.サイドはワイドを封じ、大迫がボールホルダー側のDFにチャレンジ
3.ボールホルダーから遠いインサイドハーフは、自分のマーク担当とパスコース限定のポジショニング
4.もう一方のインサイドハーフがカット担当

【自陣内でのディフェンス】
1.スターターに徹底マーク
2.センターバックは中央を締める
3.大迫とボールホルダー側インサイドハーフがパスコースを限定
4.逆サイドのサイドバックがもう一方のキーマンに対応

【ボール奪取後】
1.両ウイングが前線へと推進
2.ボールホルダーのプレイヤーは大迫とウイングのポジションを確認した上で前線へフィード
3.大迫が収めてからのショートカウンターかウイングが裏に抜けた単独突破でチャンスメイク
4.単独打開かインサイドハーフがゴール前に詰める

【『浅野拓磨』戦術とは】
 ここで一度振り返りたいのは2016年のAFCU23アジア選手権(リオ五輪の最終予選兼任)だ。決勝の相手韓国に2点ビハインドの後裏に抜けた浅野のワンタッチ、SB山中亮輔(横浜F・マリノス)のクロスにMF矢島慎也(浦和レッズ)が頭で合わせて同点。そして、極めつけが決勝点となったこのシーン。

 韓国DFのクリアしたボールをピックアップしたMF中島翔哉(ポルティモネンセ/ポルトガル)の裏へのふわっとしたボールを、DFに背を向けてポジションを入れ替えた浅野が受けて逆転弾。要は、このアクションだ。ハイプレスに加えて最短のカウンターアタックを行える人物こそ、今回のW杯を乗り切るための最大の攻撃的な武器となる。

 

後編では、これらを踏まえて、12月のE-1選手権で必要となる選手考察について述べてみたい。