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【注目チーム】代表発足から4年、初の国際大会に向けて躍進を続けるコソボ代表

FIFAランキングでは圧倒的に最下位ながら、EURO 2020予選で躍進を遂げる「コソボ代表」

 初めてEURO予選に参戦したコソボ代表が、初の本大会出場に向けて順調な戦いぶりをみせている。全8節中6試合を終えて勝ち点「11」の3位。本大会の出場資格を得られる2位のチェコを勝ち点1差で追っている。

 残り2試合となり、本大会出場がかかる11月のインターナショナルウィークでは2位のチェコ、1位のイングランドと対戦することとなっている。チェコには9月に行われたホームの試合で2-1で勝利しており、11月の試合でコソボが勝利することがあれば本大会出場に大きく近づく。また、イングランドは代表ウィークの前半に行われるモンテネグロ戦に勝利すれば本大会出場を決めるため、コソボとの最終戦はメンバーを落とす可能性が十分にあり得るだろう。

コソボの歴史とサッカー

 2008年、セルビアより独立した「コソボ」。元々ユーゴスラビアに属していたコソボの歴史は決して明るいものではない。特に1998年より始まった「コソボ紛争」では、正確な数は出ていないがおよそ1万人の犠牲者が出たとされる。独立が宣言された2008年2月以降もセルビアでは度重なる反発が起きている。

 独立からおよそ8年が経過した2016年5月、FIFAの年次総会でジブラルタルと共にFIFAに加盟することが決定。代表チームが発足し、アルバニア代表で20試合に出場していたサミル・ウイカニやスイス代表で6試合の出場経験のあるアルベルト・ブリャクらがコソボに帰化。翌6月にコソボ代表にとって初めてとなる試合が行われ、フェロー諸島に2-0で勝利を挙げた。9月から行われたロシアW杯予選にも参戦。しかし、10試合を戦い1分9敗という結果に終わり最下位で予選を終えた。

弱小チームを変えてみせたベルナルド・シャランデス監督

 2018年3月、かつてアルメニア代表の監督を務め、スイスの強豪バーゼルでスカウトを務めていたベルナルド・シャランデス氏が新監督に就任すると弱小だった代表の状況は一変する。就任初戦となった親善試合マダガスカル戦を1-0で、2戦目のブルキナファソ戦を2-0で勝利を収め好スタートを切ることに成功する。5月には自分たちのルーツであるアルバニア代表相手にアウェイで3-0の快勝。シャランデス体制となり着実に自信と実力をつけたコソボ代表は、同年9月に開幕したUEFAネーションズリーグでも大躍進を遂げる。アゼルバイジャン、マルタ、フェロー諸島と同じリーグDのグループ3に所属することとなったコソボ代表は6試合を4勝2分、15得点2失点という圧倒的な強さで首位にたった。また、コソボ代表の躍進と同時に多くの選手がステップアップを遂げる。18年冬にはミロト・ラシカがフィテッセ(オランダ)からブレーメン(ドイツ)へ、18年夏にはヴァロン・ベリシャがザルツブルク(オーストリア)からラツィオ(イタリア)へ、19年夏にはヴェダト・ムリキがコンヤスポル(トルコ)からフェネルバフチェ(トルコ)へとステップアップを遂げている。

格上相手にも互角以上の戦いをみせるコソボ代表

 そして年が明け、2019年3月よりEURO2020予選がスタート。コソボはイングランド(5)、チェコ(44)、モンテネグロ(47)、ブルガリア(48)と同じグループAに所属した。()内はFIFAランキングだが、予選開幕前のコソボ代表のFIFAランキングは130位。FIFAランキングにおいて圧倒的に格下かと思われたコソボ代表だったが、いざ蓋を開けてみると格上のチーム相手に互角以上の戦いをみせる。まず、開幕直前の3月に当時FIFAランキング10位だったデンマークと対戦。90分にピエール・エミール・ホイビュアに同点ゴールを決められ2-2に終わるも、FIFAランキングで120位格上の相手に互角の戦いをみせた。そして予選が開幕し、ブルガリア、モンテネグロ相手に1-1のドロー。そして第3戦アウェイのブルガリア戦で歴史的な逆転劇を演じ3-2で勝利。これがコソボ代表にとって公式戦初勝利となった。9月にはチェコ、イングランドと強豪との2連戦となったが、ホームでチェコに2-1で勝利。イングランドにはアウェイで3-5で敗れるも、同グループの大本命を大きく苦しめた。残り2試合となり、本大会出場がかかる11月のインターナショナルウィークでは2位のチェコ、1位のイングランドと対戦することとなっている。

選手紹介

● アリジャネ・ムリッチ(Arijanet Muric)
Pos :GK
生年月日:1998/11/7(21歳)
身長/体重:198cm/81kg
出身:スイス
所属:ノッティンガム・フォレスト(イングランド) *マンチェスター・シティからのレンタル移籍


 ベテランGKサミル・ウイカニ(トリノ)からコソボ代表の正GKの座を奪取した期待の若手GK。出生国のスイスのグラスホッパーの下部組織で育成され、15年にマンチェスター・シティの下部組織に移籍。2018-19シーズンは長期離脱したクラウディオ・ブラーボに代わりトップチームで第2GKを務めた。ブラーボが負傷から復帰した19年夏より2部のノッティンガム・フォレストにレンタル移籍。開幕当初はスタメンの座を射止めていたが、シーズン途中から同時期にカーンから加わったブライス・サンバにポジションを奪われた。
 17年から両親のルーツであるモンテネグロU-21代表としてプレーしていたが、対戦相手を頭突きし退場となったのを機に以後モンテネグロ代表に招集されず。18年11月にコソボサッカー協会の説得を受けてコソボ代表に初招集。以後コソボ代表の正GKとしてプレーしている。

● アミル・ラフマニ(Amir Rrahmani)
Pos :CB/SB
生年月日:1994/2/24(25歳)
身長/体重:190cm/75kg
出身:コソボ
所属:エラス・ヴェローナ(イタリア)


 コソボ代表のゲームキャプテン。現コソボの首都プリシュティナに生まれ、同国のドレニツァで育成された。その後アルバニアのパルティザニ・ティラナ、クロアチアのRNKスプリトを経て16年夏にディナモ・ザグレブに加入。ディナモ・ザグレブではCBやSBを器用にこなせるユーティリティープレイヤーとして公式戦57試合に出場した。19年夏にセリエAに復帰したエラス・ヴェローナに完全移籍。3バックの1角の不動のレギュラーとしてプレーしている。
 コソボ出身だが、当時はコソボ代表がなかったため年代別代表からアルバニア代表としてプレー。A代表にも招集され2試合でプレーした。16年5月に正式にコソボがFIFAへの加盟を認められたことを機にコソボ代表に鞍替え。19年6月より発足当時キャプテンを務めていたサミル・ウイカニに代わりゲームキャプテンに就任。

● フロラン・ハデルジョナイ(Florent Hadergjonaj)
Pos :SB
生年月日:1994/7/31(25歳)
身長/体重:182cm/73kg
出身:スイス
所属:ハダースフィールド(イングランド)


 19年6月にコソボに帰化した攻撃的SB。スイス出身でルツェルンやヤングボーイズの下部組織で育成された。2013-14シーズンよりヤングボーイズのトップチームに定着し、翌2014-15シーズンよりレギュラーに定着。同年のクラブ年間最優秀選手にも選出された。2016-17シーズンに当時ブンデスリーガに所属していたインゴルシュタットに引き抜かれるが、同シーズンに2部へと降格したため17年夏にプレミアリーグへと昇格を果たしたハダースフィールドへと活躍の場を移した。
 19歳よりスイスの年代別代表でプレーし、17年にはA代表デビューを飾る。しかし、シュテファン・リヒトシュタイナーやケビン・ムバブといった実力者がプレーするスイス代表では自信の居場所を確保出来ず、19年6月にコソボ代表に帰化することを決断。初招集となった同月よりレギュラーとしてプレーする。

● ヴァロン・ベリシャ(Valon Berisha)
Pos :CMF
生年月日:1993/2/7(26歳)
身長/体重:176cm/70kg
出身:スウェーデン
所属:ラツィオ(イタリア)


 過去2度コソボ年間最優秀選手に輝いている中盤のキーマン。スウェーデンのマルメでコソボ人の間に生まれたベリシャは、ノルウェーのエーゲルスンで育成された。その後、国内の強豪バイキングでプロデビューを飾り、12年夏にオーストリアの強豪ザルツブルクに引き抜かれた。加入初年度より不動のレギュラーに定着し、2013-14シーズンよりリーグ5連覇に大きく貢献。特に2017-18シーズンのUEFAヨーロッパリーグでのザルツブルクの躍進はベリシャの活躍なしでは成し得なかっただろう。ザルツブルク通算公式戦233試合45ゴールという結果を残したベリシャは、18年夏にセリエAの強豪ラツィオへとステップアップ。しかし、負傷の影響もあり加入初年度は不完全燃焼に終わった。2019-20シーズンも控えに回っており、20年冬にも出場機会を求めて新たなクラブへ活躍の場を移す可能性もあるだろう。
 15歳より自身が育ったノルウェー代表を選択。18歳の時にA代表に選手され20試合に出場するも、16年5月にコソボ代表がFIFAへの加盟が認められたことを機にコソボ代表に鞍替え。コソボ代表創立当初から不動のレギュラーとしてプレーしている。

● ミロト・ラシカ(Milot Rashica)
Pos :RMF
生年月日:1996/6/28(23歳)
身長/体重:177cm/73kg
出身:コソボ
所属:ブレーメン(ドイツ)


 ドルトムントが移籍が噂されるジェイドン・サンチョの後釜に獲得を熱望する快速WG。コソボのヴシュトリアで生まれたラシカは、地元のFCヴシュトリアで育成された。15年夏にオランダのフィテッセに加入。加入初年度からレギュラーに定着し、リーグ戦33試合で8ゴール5アシストを記録。その後も不動のレギュラーとしてプレーし、18年冬にドイツのブレーメンへと引き抜かれた。加入2シーズン目より不動のレギュラーに定着し、2018-19シーズンはブンデスリーガ26試合で9ゴール5アシストという好成績を残した。
 16歳より年代別のアルバニア代表としてプレーし、19歳の時にA代表に初選出。2試合に出場したが、他の選手同様に16年5月にコソボ代表がFIFAへの加盟が認められたことを機にコソボ代表に鞍替え。攻撃陣の中心としてチームを牽引している。

● アルベル・ゼネリ(Arbër Zeneli)
Pos :LMF
生年月日:1995/2/25(24歳)
身長/体重:176cm/70kg
出身:スウェーデン
所属:スタッド・ランス(フランス)


 2018年のコソボ年間最優秀選手。スウェーデンでコソボ人の両親の間に生まれたゼネリは、エルフスボリの下部組織で育成された。2014シーズンにトップチームに昇格すると、翌2015シーズンはリーグ戦30試合10ゴール8アシストと結果を残した。この活躍を受け、16年冬にオランダのヘーレンフェーンに引き抜かれた。ヘーレンフェーンでは在籍した3シーズンで公式戦100試合21ゴール27アシストを記録。この活躍が認められ19年冬にリーグ・アンのスタッド・ランスへとステップアップを遂げた。スタッド・ランスでも中心選手として出場していたが、6月に膝の前十字靭帯断裂の大ケガを負い20年3月までの負傷離脱が決定的となっている。
 17歳より生まれ育った年代別のスウェーデン代表としてプレーし、15年にはスウェーデンU-21代表としてUEFA U-21欧州選手権を制覇。スウェーデン代表入りも期待されたが、16年5月にコソボ代表が設立されたことに伴いコソボ代表を選択。18年11月に行われたUEFAネーションズリーグ、アゼルバイジャン戦ではハットトリックを達成。ストライカーのヴェダト・ムリキと共にコソボ代表の得点源となっている。

● ヴェダト・ムリキ(Vedat Muriqi)
Pos :CF
生年月日:1994/4/24(25歳)
身長/体重:194cm/92kg
出身:コソボ
所属:フェネルバフチェ(トルコ)

 ビッククラブも注目するコソボ代表のエース。長くコソボや生まれ育ったアルバニアのクラブでプレーし、14年夏にトルコ2部のギレスンスポルや1部のゲンチレルビルリイを経て当時2部に所属していたコンヤスポルに完全移籍すると得点力が開花。2部で16試合8ゴール、1部へと昇格した2018-19シーズンはリーグ戦34試合で得点ランキング2位となる17ゴールを記録しブレイク。19年夏にトルコの強豪であるフェネルバフチェに引き抜かれた。フェルナンド・ジョレンテ退団後、ハリー・ケイン以外のCFのオプションに欠けるトッテナムが獲得に強い関心を示している。
 19歳の時にアルバニアU-21代表に選出。16年にデビューしたコソボ代表ではエースに君臨。EURO2020予選では4試合連続ゴールを記録し、中でもイングランド戦では1ゴール2アシストの活躍を披露。コソボ代表のエースとしてチームを牽引している。