▽2011年にカタール資本が投入されてから急速に世界を代表する強豪クラブへと駆け上がったパリ・サンジェルマン。12年夏にはズラタン・イブラヒモビッチやチアゴ・シウバ、17年夏にはネイマールやキリアン・ムバッペといった大物タレントを次々と獲得しクラブを強化してきた。
▽金満クラブというイメージが強いパリ・サンジェルマンだが、実は多くの名選手を輩出してきたという「育成の名門」という側面もある。現在のプレミアリーグのビッグ6のうち4クラブに在籍し、同リーグ通算126ゴールを記録した元フランス代表FWニコラ・アネルカや、フランス代表にとって初のEURO優勝となった1984年大会で中心選手として活躍した元フランス代表MFルイス・フェルナンデスらが下部組織出身の代表格だ。また、かつてマンチェスター・ユナイテッドで長きに渡って活躍した元フランス代表DFパトリス・エブラもわずか1年だがPSGの下部組織でプレーした経験を持つ。しかし、現在は毎年行われる大型補強の影響を受け、スタメンクラスの下部組織出身の選手はプレスネル・キンペンベのみとなっている。
▽その余波を受けているのが他のリーグ・アンのクラブだ。毎年のように即戦力を補強するPSGでポジションを掴めなかった有望な若手選手が他クラブへと移籍するのも毎年の恒例行事となっている。今回、「Evolving Date」ではPSGの下部組織が輩出した15名の有望タレントを独自に厳選。それでは紹介していこう。
*コラン・ダグバは3部のブローニュでプロデビューを果たし、16年にPSGに引き抜かれているため下部組織出身扱いしていない。
● アルフォンス・アレオラ(Alphonse Areola)
代表:フランス代表
Pos :GK
生年月日:1993/2/27(26歳)
身長/体重:195cm/94kg
所属:レアル・マドリード(スペイン) *パリ・サンジェルマンからのレンタル移籍
PSG在籍期間:2006年~(下部組織時代を含む)
▽19年夏にコスタリカ代表GKケイラー・ナバスとトレードの形でレアル・マドリードに加入したフランス代表の2番手GK。2012-13シーズンにトップチームデビューを飾り、ビジャレアルへのレンタル移籍から復帰した16年夏より出場機会を増やした。2018-19シーズンは元イタリア代表GKジャンルイジ・ブッフォンと熾烈なポジション争いを繰り広げた。ロシアW杯優勝メンバー。
● マイク・メニャン(Mike Maignan)
代表:フランス代表
Pos :GK
生年月日:1995/7/3(24歳)
身長/体重:191cm/89kg
所属:リール
PSG在籍期間:2009年~2015年
▽2018-19シーズンにリーグ・アンで快進撃を遂げたリールの正守護神。元フランス代表MFフローラン・マルダと同じフランス領ギアナ出身で、09年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団。2013-14、2014-15シーズンは数試合トップチームでベンチ入りを果たすも出場機会は回ってこなかった。15年夏に同じリーグ・アンのリールへと出場機会を求め完全移籍。2017-18シーズンより正GKに定着すると、2018-19シーズンはリーグ戦38試合33失点と好成績を収めクラブの2位フィニッシュに大きく貢献した。2019年6月にフランス代表初選出。
● プレスネル・キンペンベ(Presnel Kimpembe)
代表:フランス代表
Pos :CB
生年月日:1995/8/13(24歳)
身長/体重:183cm/77kg
所属:パリ・サンジェルマン
PSG在籍期間:2005年~
▽パリ・サンジェルマンのトップチームで数少ない下部組織出身の選手。2014年10月に行われたRCランス戦でトップチームデビュー。この試合の前までは父親のルーツであるDRコンゴU-21代表としてプレーしていたが、15年3月にフランスU-20代表に初選出。2015-16シーズン後半よりトップチームに定着し、チアゴ・シウバとマルキーニョスのブラジル代表コンビが健在の中でも出場機会を掴んだ。マンチェスター・ユナイテッドと対戦した2018-19シーズン、UEFAチャンピオンズリーグ決勝トーナメント1回戦2nd legでは試合終了間際に痛恨のハンドでPKを献上。このPkを決められ、パリはアウェイゴール差でベスト8進出を逃した。ロシアW杯優勝メンバー。
● ママドゥ・サコ(Mamadou Sakho)
代表:フランス代表
Pos :CB
生年月日:1990/2/13(29歳)
身長/体重:187cm/83kg
所属:クリスタル・パレス
PSG在籍期間:2002年~2013年
▽かつてのパリ・サンジェルマンのキャプテン。07年10月に行われたヴァランシエンヌ戦でリーグ・アンデビューを飾ると同時にポール・ル・グエン監督にゲームキャプテンに任命された。これはクラブとリーグの最年少キャプテン記録である(17歳8ヶ月)。2008-09シーズンよりレギュラーに定着し、2010-11シーズンはリーグの年間ベストイレブンと最優秀若手選手に選出された。引退したクロード・マケレレに代わり2011-12シーズンよりキャプテンに就任。しかし、アレックスやチアゴ・シウバといった実力者が続々と加入し、13年夏に出場機会を求めてリバプールに移籍。しかし、リバプールでは度重なるケガの影響もあり、絶対的な選手にはなれなかった。17年夏にクラブ史上2番目となる2600万ポンドの移籍金でクリスタル・パレスに加入した。
● ダン=アクセル・ザガドゥ(Dan-Axel Zagadou)
代表:フランスU-21代表
Pos :CB/SB
生年月日:1999/6/3(20歳)
身長/体重:196cm/90kg
所属:ドルトムント(ドイツ)
PSG在籍期間:2011年~2017年
▽19年夏に行われたU-20W杯でキャプテンを務めたフランス期待の若手CB。地元のクレテイユ=リュシタノで育成されたザガドゥは、12歳だった11年にパリ・サンジェルマンに加入。14年からはフランスの年代別代表に選出されキャプテンを務めてきた。パリ・サンジェルマンのトップチームに出場することなく17年夏にドルトムントに移籍。
● フォデ・バロ・トゥーレ(Fodé Ballo-Touré)
代表:フランスU-21代表
Pos :LSB/LMF
生年月日:1997/1/3(22歳)
身長/体重:182cm/70kg
所属:モナコ
PSG在籍期間:2005年~2017年
▽19年冬にモナコに加入した攻撃的SB。8歳でパリ・サンジェルマンの門を叩き、セカンドチームで主力としてプレーするもトップチーム昇格ならず。17年夏にリールへと活躍の場を移すと、2018-19シーズンはチームの大躍進に大きく貢献。19年冬に下位に沈んでいたモナコが1100万ユーロで獲得した。3バック時は左のWBとしてプレーする。
● ユスフ・サバリ(Youssouf Sabaly)
代表:セネガル代表
Pos :LSB/RSB
生年月日:1993/3/5(26歳)
身長/体重:173cm/67kg
所属:ボルドー
PSG在籍期間:2003年~2016年
▽ロシアW杯で日本代表を苦しめたセネガル代表DF。現在はセネガル代表を選択しているが、生まれはフランスのル・シェネ。03年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団し、フランス各年代別代表でプレー。13年に行われたU-20W杯にも出場し、自身は1試合の出場に留まったがポグバや同じパリユースのアレオラらと共に優勝に貢献した。クラブではエヴィアン、ナントへのレンタル移籍を経て16年夏にボルドーに加入。2019-20シーズンは膝のケガの影響で開幕直後から離脱を余儀なくされている。
● マテオ・ゲンドゥージ(Matteo Guendouzi)
代表:フランス代表
Pos :CMF
生年月日:1999/4/14(20歳)
身長/体重:185cm/64kg
所属:アーセナル(イングランド)
PSG在籍期間:2005年~2014年
▽成長著しいアーセナルの俊英。モロッコ人の両親の間に生まれたゲンドゥージは、05年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団。しかし、カタール資本の影響を受け14年に半ば戦力外の形でロリアンの下部組織に移籍した。15年にロリアンU-17をフランスU-17トーナメントで優勝に導く活躍を披露したことで注目を浴びる。16年夏にトップチームに昇格するもチームは2部へと降格。2部降格後も残留したゲンドゥージだったが、シーズン途中にミカエル・ランドロー監督したことが影響し契約延長を拒否。18年夏にアーセナルへと700万ポンドの移籍金で移籍した。ちなみに2歳下の弟であるミラン・ゲンドゥージはトロワのBチームに所属している。髪型は兄と瓜二つだ。
● アドリアン・ラビオ(Adrien Rabiot)
代表:フランス代表
Pos :CMF
生年月日:1995/4/3(24歳)
身長/体重:188cm/71kg
所属:ユベントス(イタリア)
PSG在籍期間:2010年~2014年
▽今夏にユベントスへ活躍の場を移したフランス代表MF。クレテイユ=リュシタノの下部組織でサッカーを始めたラビオは、マンチェスター・シティなど複数クラブを経て10年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団。半年間のトゥールーズへのレンタル移籍を経て復帰した2013-14シーズンよりレギュラーの一角としてプレーするも、クラブとの契約延長を拒否したことで2018-19シーズンは構想外となった。争奪戦の末、19年夏にフリーでユベントスに加入。
● ブバカリ・スマレ(Boubakary Soumare)
代表:フランスU-21代表
Pos :CMF
生年月日:1999/2/27(20歳)
身長/体重:188cm/70kg
所属:リール
PSG在籍期間:2011年~2017年
▽ビッグクラブが揃って熱視線を送るリールの大型ボランチ。06年から11年までパリFCの下部組織で育成され、11年にパリ・サンジェルマンの下部組織に移籍。セカンドチームでは出場機会があったが、トップチームでの出番を与えられず17年夏にリールへ移籍。リールでは徐々に出場機会が増え、2019-20シーズンはバイエルンより加入したレナト・サンチェスとダブルボランチを組む。
● クリストファー・エンクンク(Christopher Nkunku)
代表:フランスU-21代表
Pos :CMF/OMF/SMF
生年月日:1997/11/14(21歳)
身長/体重:175cm/73kg
所属:ライプツィヒ(ドイツ)
PSG在籍期間:2010年~2019年
▽アーセナルなどとの争奪戦の末にライプツィヒに加入した中盤のマルチプレイヤー。10年からパリ・サンジェルマンの下部組織でプレーし、2015-16シーズンはジャン=ケビン・オギュスタン(現モナコ)らと共にUEFAユースリーグで準優勝に大きく貢献。2016-17シーズンからはトップチームでも出場機会を増やし、退団する19年夏までに公式戦78試合に出場していた。ライプツィヒでは中盤のマルチプレイヤーとしてユリアン・ナーゲルスマン新監督の期待に応えている。
● ジョナサン・イコネ(Jonathan Ikone)
代表:フランス代表
Pos :OMF
生年月日:1998/5/2(21歳)
身長/体重:175cm/67kg
所属:リール
PSG在籍期間:2010年~2018年
▽アーセナルへと移籍したニコラ・ペペと共に2018-19シーズンのリール躍進を支えたアタッカー。10年からパリ・サンジェルマンの下部組織でプレーし、2016-17シーズンのUEFAチャンピオンズリーグGSルドゴレツ戦でトップチームデビューを飾った。2016-17シーズン後半から1年半モンペリエへレンタル移籍し、18年夏にリールに完全移籍で加入。移籍初年度からリーグ戦全試合に出場し、3ゴール9アシストの活躍を披露。クラブのリーグ2位フィニッシュに大きく貢献した。クラブとU-21代表での活躍が評価され、19年9月にA代表に初招集。デビュー戦となったアルバニア戦で1ゴール、デビュー2戦目となったアンドラ戦で1アシストを記録し、早速ディディエ・デシャン監督の期待に応えてみせた。
● キングスレイ・コマン(Kingsley Coman)
代表:フランス代表
Pos :RWG/LWG
生年月日:1996/6/13(23歳)
身長/体重:179cm/75kg
所属:バイエルン(ドイツ)
PSG在籍期間:2004年~2014年
▽世代交代に成功したバイエルンを牽引する快速WG。パリで生まれたコマンは8歳だった2004年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団。2012-13シーズン、ソショー戦で途中出場を果たし、ニコラ・アネルカが保持していたクラブ最年少デビュー記録を16歳8ヶ月に更新した。2013-14シーズンはトップチームで3試合に出場したが、クラブから提示された新契約を拒否しユベントスへ移籍。2015-16シーズンよりバイエルンに活躍の場を移し、ロベリーの後を継ぐ形でWGのレギュラーポジションを確保した。ちなみに2012-13シーズンのデビューから毎シーズン、リーグ優勝を達成している。
● ムサ・デンベレ(Moussa Dembele)
代表:フランスU-21代表
Pos :CF
生年月日:1996/6/12(23歳)
身長/体重:183cm/78kg
所属:リヨン
PSG在籍期間:2004年~2012年
▽マンチェスター・ユナイテッドを始めとする強豪が関心を示す将来のフランス代表エース候補。コマンより1日早く生まれたデンベレは、同じく2004年にパリ・サンジェルマンの下部組織に入団。トップチームに出場しないまま、12年にイングランドのフラムへ移籍。19歳となって臨んだ2014-15シーズンは、チャンピオンシップ(イングランド2部)で15ゴールを記録。この活躍が認められセルティックへと移籍し、公式戦94試合で51ゴールを記録した。18年夏に母国のリヨンへとステップを果たした。ちなみにかつてトッテナムでプレーしたムサ・デンベレとは日本語にすると同姓同名だが、こちらは英字だと「Mousa Dembélé」となるため厳密には同姓同名ではない。
● オドソンヌ・エドゥアール(Odsonne Edouard)
代表:フランスU-21代表
Pos :CF
生年月日:1998/1/16(22歳)
身長/体重:187cm/83kg
所属:セルティック(スコットランド)
PSG在籍期間:2011年~2017年
▽リヨンへと去っていったムサ・デンベレの後釜としてセルティックが獲得したパリ・サンジェルマン育ちのストライカー。11年にパリ・サンジェルマンの下部組織に加入し、U-19チームでは2シーズンで60ゴール以上を記録するなど絶対的なエースとして注目を浴びた。その後、トゥールーズへのレンタル移籍を経て18年冬にセルティックに加入。当初から移籍が噂されていたデンベレの後釜として期待に応え、2018-19シーズンはリーグ戦で15ゴールを記録した。また、デンベレお同じくフランスの年代別代表でも各世代で絶対的なエースに君臨しており、15年に行われたU-17欧州選手権では優勝に導くと同時に、出場した5試合で8ゴールを記録し得点王とMVPに輝いた。中でも決勝ドイツ戦でのハットトリックは圧巻のパフォーマンスであった。
《その他のパリ・サンジェルマンの下部組織出身の選手たち》
▼DF
セバスティアン・コルシア(エスパニョール/スペイン) 2004年~2006年
スレイマン・ドゥンビア(スタッド・レンヌ) 2009年~2016年
フェリックス・エボア・エボア(ギャンガン) 2010年~2017年
スタンリー・エンソキ(ニース) 2014年~2019年
MF
ガブリエル・オベルタン(エルズルムスポル/トルコ) 2003年~2004年
ヤシン・ブラヒミ(アル・ラーヤン/カタール) 2004年~2006年
ユースフ・ムルンブ(無所属) 2004年~2009年
ネースケンス・ケバノ(フラム/イングランド) 2006年~2013年
アントワーヌ・ベルネード(ザルツブルク/オーストリア) 2012年~2019年
ムサ・ディアビ(レバークーゼン/ドイツ) 2013年~2019年
アルテュール・ザグル(モナコ) 2013年~2019年
ヤシン・アドリ(ボルドー) 2013年~2019年
▼FW
ジャン=ケビン・オギュスタン(モナコ) 2009年~2017年
ティモシー・ウェア(リール) 2014年~2019年
*コラン・ダグバは3部のブローニュでプロデビューを果たし、16年にPSGに引き抜かれているため下部組織出身扱いしていない。
《まとめ》
詳細に紹介した15名の選手以外にも多くのポテンシャルの高い選手を輩出しているパリ・サンジェルマン。特にリールはその恩恵を受けており、2018-19シーズンのスタメン11人のうちマイク・メニャンやジョナサン・イコネといった4人の選手がパリ・サンジェルマンで育成された選手であった。2018-19シーズンのリールの躍進はパリ・サンジェルマンの大型補強がなければなかったかもしれない。
そして気になるのは現在パリ・サンジェルマンの下部組織でプレーしている選手たちだろう。フランスの各年代別代表でキャプテンを任されている18歳のDFロイク・ムベ・ソウや、先日トップチームデビューを果たしたMFアディル・アウシシュらはフランスの将来を期待されている選手たちだ。彼らが今後どのようなキャリアを歩んでいくかも注目だ。
*20年夏にタンギ・クアシとアディル・アウシシュはPSGともプロ契約を拒否。前者はバイエルン、後者はサンテティエンヌに加入した。