今季のチェルシーが大変貌を遂げている。長年にわたって「堅守速攻」を主体としてきたチームスタイルから一変し、オン・ザ・ボールで試合を掌握するポゼッションスタイルとなった。テキストに加えて画像を加味しながら、さらには「本日」ついに収録してきたラジオ音源で活用した資料を踏まえて説明していきたい。
新指揮官がチェルシーにもたらした「サッリ・ボール」の哲学
今季のチェルシーは大変貌を遂げている。「堅守速攻」を追求したチームスタイルから一変し、オン・ザ・ボールで試合を掌握するポゼッションスタイルとなった。リーグ7試合を終了した段階の総パス数『5,077本』、試合平均パス数『725本』、ポゼッション『63.1%』はいずれもマンチェスター・シティに次ぐリーグ2位(シティの総パス数『5,111』、試合平均パス数『730』、ポゼッション『67.3%』)であり、昨シーズンはいずれもリーグ5番目の数値となった総パス数『21,264本』、試合平均パス数『560本』、ポゼッション『54.4%』と比較すればスタイルが大幅に変化したことがわかる。
大変貌の大きな要因は、今季セリエAのナポリから招聘した新指揮官のマウリツィオ・サッリである。ボールを掌握して相手陣内に押し込めるだけでなく、縦横への揺さぶりや緩急でディフェンスを混乱に落とし込み、作り出されたスペースに攻撃陣が走り込むというスピード感満載の『サッリ・ボール』をたった1ヶ月で落とし込んだ。
新指揮官とセットで愛弟子のMFジョルジーニョを獲得できたことも大きい。第3節ニューカッスル戦ではニューカッスルのチーム全体のパス成功数『131』を超える『158本』ものパスを一人で成功させたり、第6節ウェストハム戦では1試合パス本数180本のプレミアリーグ新記録を樹立するなど、チームのパスワークに欠かせない存在となっている。前線にボールを当ててジョルジーニョに落とし、裏への配球、サイドへの散らしなど、変幻自在なパスワークを行うことで、チェルシーの大変貌へとつながっている。
リバプール戦で見せた白眉なパスワークの真髄
リバプール戦で先制点を獲得したシーンは、『サッリ・ボール』の真髄が詰まっていた。DFダビド・ルイスがFWエデン・アザールにパスを出すと、アザールはワンタッチで反転し、敵陣へと加速。受けたMFマテオ・コヴァチッチがセンターサークル内でジョルジーニョに横パスを出し、反転してマーカーを振り切ると、ジョルジーニョはワンタッチでコヴァチッチへ。ハーフスペースを全速力で駆け抜けるアザールへボールを送ると、ドリブルで抜け出し、得点を決めた。
ジョルジーニョに対してリバプールMFジョーダン・ヘンダーソンが徹底的にマークしていたことからキャストは変わったが、ダビド・ルイスからボールを受けたアザールがワンタッチで反転した点や、コヴァチッチとジョルジーニョがパスでマーカーを剥がした点は縦横の揺さぶりや緩急を最大限に活用した点だ。
さらには、コヴァチッチから『ハーフスペース』を走るアザールへと縦パスが出されるシーンも真骨頂が表れている。ハーフスペースとは、ピッチを縦に5等分し、両端と中央のレーンを除いた場所を指すが、左からDFマルコス・アロンソ、アザール、コヴァチッチ、FWオリヴィエ・ジルー、FWウィリアンと全レーンに1人ずつがゴールを向いた状態でのポジション取りに成功している。半身の体制で待ち受けるリバプールDF陣や、裏を取られて追いかけるしかないリバプールDFトレント・アレクサンダー=アーノルドにとっては酷な状況だ。
リーグ失点数「2」で迎えたリバプールのディフェンスラインすら混乱に落とし込んだサッリ率いる新生チェルシーは、リーグ戦開幕後国内カップ戦、欧州カップ戦問わず未だ負けなしだ。対策を講じてくるチームも現れるシーズン中盤戦へ向けて、さらなる一手がどのように現れるかが見ものである。