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【選手名鑑】アルナウトビッチの現在地|「悪童」から「大人」へと成長したメンタル面の変化

 イングランドの首都ロンドンに本拠地を構えるウェストハム。そのウェストハムでエースとして大活躍しているのがオーストリア代表FWマルコ・アルナウトビッチだ。イングランドへ移籍した2013年以降、昨季までの5シーズンでプレミアリーグ156試合で33ゴール33アシストを記録。今季もエースとしてゴールを量産している。しかし、かつてはメディアに”the bad boy of Austrian football”と揶揄されるなどバロテッリらと共に「悪童」として知られていた。イングランドへ移籍した時、果たして誰が成功を収める姿を予想していただろうか。彼の人生を紐解いていくと、成功の裏にはプレースタイルの変化だけでなく「メンタル面の変化」というものが大きく影響していたことがわかった。



アルナウトビッチのプレースタイルと選手紹介

 得点、アシスト能力も高く、前線であればどこのポジションでもプレー可能な「万能型FW」。192cm/83kgとパワフルな体格の持ち主ながら、足元の技術も身体能力も高い。さらには左右両足からパンチ力のあるシュートを打て、ヘディングでも多くのゴールを決めることから元スウェーデン代表FWズラタン・イブラヒモビッチと比較されることが多い。ブレーメン在籍時やストーク在籍時はウイングで起用されることが多かったが、ウェストハムへ移籍した17-18シーズン以降はCFで起用されることが多い。また、大柄ながら裏に抜ける動きが得意。そのためオフサイドが多く、17-18シーズンはリーグで2番目に多い43回のオフサイドを記録した。

マルコ・アルナウトビッチのプロフィール

選手名 マルコ・アルナウトビッチ(Marko Arnautovic)
ポジション FW
出身 オーストリア/ウィーン
年齢/生年月日 32歳/1989年4月19日
身長・体重 192cm・83kg
現所属チーム/背番号/利き足 ウェストハム(イングランド)/7/両足
代表/デビュー年 オーストリア代表/2008年10月11日
過去所属 ストーク(イングランド)、ブレーメン(ドイツ)、インテル(イタリア)、トゥウェンテ(オランダ)など
クラブ・代表タイトル セリエA(インテル)、UEFAチャンピオンズリーグ(インテル)、コパ・イタリア(インテル)
個人タイトル ウェストハム年間最優秀選手(17-18)、オーストリア年間最優秀選手(2018)

幼少期からプロ選手になるまで

 マルコ・アルナウトビッチは、1989年4月19日にウィーン北部の街「フロリッツドルフ」でセルビア人の父親とオーストリア人の母親の間に生まれた。幼い頃から負けず嫌いで、常に自分が世界で最初の人間でありたいと考えていたという。そのため若いころから勉学に励み、現在は5ヶ国語(ドイツ語、英語、イタリア語、セルビア語、オランダ語)を習得している。現在、自身の代理人を務める兄のダニエルと共にサッカーを始め、1995年6歳の時に地元のフローリツドルファーACに入団。3年間プレーした後、1998年に国内屈指の強豪クラブであるオーストリア・ウィーンの下部組織に移籍。しかし、ここから「素行の悪さ」が原因で様々なクラブを渡り歩くように。結果、6年間でオーストリア・ウィーン→ファースト・ウィーン→オーストリア・ウィーン→ラピッド・ウィーンと様々なチームへ移籍。そして15歳になった2004年、キャリアをスタートさせたフローリツドルファーACに満を持して復帰。あまりにも素行が悪いため、プロ選手になれるか心配されていたという。



オランダでの成功

 2006年、オランダのトゥウェンテのスカウトがアルナウトビッチの才能に惚れ込み獲得を検討。17歳でプロ契約を結んだ。2007年4月14日に行われたPSV戦で途中出場を果たし、エールディビジデビューを飾る。07-08シーズンからは出場機会を増やし、エールディビジ14試合に出場。この頃からズラタン・イブラヒモビッチと比較されるようになる。08-09シーズンからはスタメンの座を確保。10月に19歳でオーストリア代表デビューを飾ると、それから1週間後の第6節ヘラクレス戦でプロ初ゴールを記録。するとここからゴールを量産。エールディビジ28試合で12ゴール6アシストを記録し、ビッククラブの注目の的となった。

ビッククラブでの挫折

 2009年8月5日、チェルシーとの争奪戦の末にモウリーニョ率いるインテルへ買い取りOP付きレンタル移籍を果たす。しかし、インテルは同じシーズンにサミュエル・エトーやディエゴ・ミリート、ウェズレイ・スナイデル、ゴラン・パンデフなど大型補強を敢行しておりほとんど出場機会を掴むことが出来ず。また、同じく問題児のマリオ・バロテッリと仲がよかった。監督のモウリーニョからは「まるで子供のようなメンタルだ」と批判され、シーズンを通じて55分の出場に留まった。もちろんUEFAチャンピオンズリーグ優勝の瞬間もスタンドで眺めていた。結果、インテルは買い取りOPを行使せず、ビッククラブ挑戦はわずか1年で終わった。

再起をかけたドイツでの挑戦

 2010年7月1日、ドイツのブレーメンへ完全移籍することが発表されると、ビッククラブで出場機会を得ることが出来なかった男の再起をかけた戦いが始まった。3シーズンでブンデスリーガ72試合に出場するなど多くの出場機会を得たが、ハットトリックを記録した次の試合では完全に姿を消すなど調子のムラが激しかった。また、公の場で自身を起用しなかった監督やフロントを批判したり、練習中にチームメイトであるソクラテス・パパスタソプーロス(現アーセナル)と殴り合ったりスピード違反で逮捕されるなど、ユース時代と変わらない素行の悪さが問題視された。

人生を変えた妻との出会い

 マルコ・アルナウトビッチと妻のサラはブレーメンのディスコで出会った。少しキレっぽくて尖っている性格だったマルコを、サラは優しく受け入れてくれたそうで、マルコはその性格に惚れたという。2人は出会ってほどない2012年6月に結婚。同年7月に長女が誕生。2015年7月には次女が誕生し、現在は2女の父となったマルコ。自身の胸にはタトゥーで娘のエミリアの名前が大きく刻まれている。すっかりイクメンとなったマルコの性格は次第に丸くなり、後のインタビューで「娘の誕生によって僕は成長したんだ」と振り返っている。

イングランドでの成功

 2013年9月2日、イングランドのストークへの完全移籍が発表された。1シーズン目から4ゴール10アシストを記録するなど結果を残し、3シーズン目はプロ2度目の2桁ゴールを記録。さらにこのシーズンは、トッテナム、チェルシー、マンチェスター・ユナイテッド、マンチェスター・シティからゴールを記録し、いずれも勝利するなど「ビック6キラー」と名を馳せた。ストークに在籍した4シーズンで145試合26ゴール32アシストと結果を残した。結婚、娘誕生を経て自然と「素行の悪さ」が問題視されなくなっていた。

 2017年7月22日、同じイングランドのウェストハムへの完全移籍が発表された。移籍金はクラブ史上最高額とされる。元々はウイングで起用されていたが、チチャリートやアンディ・キャロルの不調によるCFに抜擢。自身3度目のシーズン2桁得点を記録した。18-19シーズンは、監督がモイーズからペジェグリーニに交代。監督交代後もCFとしてプレーし、チームのエースに君臨している。

もう一度あの舞台へ

  妻と娘と出会ったことで世界最高峰のリーグであるプレミアリーグで成功を収めたアルナウトビッチ。次なる野望はUEFAチャンピオンズリーグでのプレーだろう。インテル時代に優勝を経験しているものの、出場時間は0分。その悔しさを経験しているこそUEFAチャンピオンズリーグへの思いというものに対しては特別な思いがある。

 アルナウトビッチはインタビューでこう語っている。「僕はインテル時代にUEFAチャンピオンズリーグを制した。ベルナベウ(決勝の会場)でバイエルンを倒したが、僕はプレーすることはなかった。だから僕はこのメダルを見ても優勝したとは思えないんだ。みんなは僕のことを優勝の場にいたと言うけどね。僕はサッカー選手だからチームメイトと共に戦いたい。」

 最後に1つ。アルナウトビッチの腹のタトゥーにはこう刻まれている。

“If you can dream it,you can do it.”

 これはディズニー社を創建したウォルト・ディズニーの名言だ。翻訳すると「夢を描くことができれば、それは実現できる。」となる。要するに「夢があれば叶う」という意味だ。UEFAチャンピオンズリーグをチームメイトと共に優勝することを夢に描くアルナウトビッチ。今季ウェストハムが出場権を逃せば、新たなクラブへと旅立つかもしれない。

アルナウトビッチの動画



年度別出場成績

2019/上海上港

スーパーリーグ 11試合9ゴール3アシスト
ACL       2試合0ゴール0アシスト
中国FAカップ  2試合0ゴール0アシスト

2018-19/ウェストハム

プレミアリーグ 28試合10ゴール4アシスト
FAカップ     1試合1ゴール0アシスト
EFLカップ    1試合0ゴール0アシスト

2017-18/ウェストハム

プレミアリーグ 31試合11ゴール6アシスト
FAカップ    1試合0ゴール0アシスト
EFLカップ   2試合1ゴール1アシスト

2016-17/ストーク

プレミアリーグ 32試合6ゴール5アシスト
FAカップ    1試合0ゴール0アシスト
EFLカップ    2試合1ゴール1アシスト

2015-16/ストーク

プレミアリーグ 34試合11ゴール6アシスト
EFLカップ    6試合1ゴール1アシスト    

2014-15/ストーク

プレミアリーグ 29試合1ゴール6アシスト
FAカップ    3試合1ゴール1アシスト
EFLカップ    3試合0ゴール1アシスト

2013-14/ストーク/ブレーメン

プレミアリーグ 30試合4ゴール10アシスト
FAカップ    2試合0ゴール1アシスト
EFLカップ    3試合1ゴール1アシスト

ブンデスリーガ 2試合0ゴール0アシスト
DFBポカール   1試合0ゴール0アシスト

2012-13/ブレーメン

ブンデスリーガ 26試合5ゴール8アシスト
DFBポカール   1試合0ゴール1アシスト

2011-12/ブレーメン

ブンデスリーガ 19試合6ゴール0アシスト
DFBポカール   1試合0ゴール0アシスト

2010-11/ブレーメン

ブンデスリーガ 25試合3ゴール3アシスト
DFBポカール   2試合0ゴール1アシスト
UCL       5試合2ゴール0アシスト
UCL予選     2試合0ゴール0アシスト

2009-10/インテル

セリエA     3試合0ゴール
コパ・イタリア 0試合0ゴール0アシスト
UCL       0試合0ゴール0アシスト

08-09/トゥウェンテ

エールディビジ 28試合12ゴール6アシスト
KNVBカップ   5試合1ゴール2アシスト
UEFAカップ   7試合1ゴール
UCL予選     1試合0ゴール0アシスト

2007-08/トゥウェンテ

エールディビジ 14試合0ゴール2アシスト
UEFAカップ   1試合0ゴール0アシスト
ELプレーオフ  1試合0ゴール0アシスト

2006-07/トゥウェンテ

エールディビジ 2試合0ゴール0アシスト




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