Evolving Data Labo

隙間からスペースを作る匠『武藤雄樹』が1秒で出した解決策

 FW武藤雄樹はMF青木拓矢から縦パスを受けると、チェックしてきたDFを背負う。前方から挟み込みにかかる選手にあえて向かっていくと、倒れ込みながら左へ急旋回してパスを入れた。その先にはタイトにマークが付かれていたMFファブリシオがフリーになっていた。ボールを収めたファブリシオは冷静にゴールへと流す。浦和の2点目が決まった瞬間だった。
 今節は豪快なゴールが多く見受けられたものの、得点者のみならず『武藤雄樹』でなければ生まれなかった本ゴールに着目し、彼の個人戦術を解き明かしたい。

 武藤雄樹は、2015年以降の4年間で『最も得点コネクト数』の高い選手である。得点関与とは『ゴール』『アシスト』『スタート(得点に至った攻撃の起点者)』『コネクト(得点に至った攻撃において得点・アシスト・スタート以外の関与者)』の4項目から構成される数値である。海外のデータサイトではセカンドアシストやサードアシストといった表記が用いられることもあるが、日本初を標榜しながら2015年よりデータ収集を行う弊媒体Evolving Dataは『スタート』『コネクト』の項目を作り上げている。
 2007年のJFL(流通経済大1年時)、2015年・2016年(J1浦和)とリーグ二桁得点を記録しているが、彼の本質はストライカーとアシスターをつなげる『コネクト』にある。

 サッカーとはあらゆる選択肢から最適解と思しきプレーを選択し、類まれな技術や日々のトレーニングによって成功率を高めた上で得点へと至る道筋を描き続ける球技だ。例えば、画像のような5項目のアクション選択でも正解になることもありうる。
 しかし、①ではタイミング次第でオフサイドの可能性が高まり、②では相手DFが揃っている以上高い効果を出すことはできない。③は確率を落とす行為ではないものの、攻撃の人数を無闇矢鱈に増やしているだけであり、仮に奪われた際のネガティブトランジションに対応できかねる可能性がある。武藤雄の真骨頂の一つである④のスルーはたしかに通常であれば高い可能性だが、磐田DF森下俊は事前に情報を知っていたか、スルーを消す動きから入った。これであれば取れる行動は絞られる。⑤単純に反転する場合の効果はある。しかし、森下が引き出されなかった場合には完全に無効化される動きだ。
 故に選択したのはドリブルで持ち下がる動きだ。たった1秒だけ持ち下がるだけでDF森下俊は引き出され、持ち下がったことにより磐田MF山本康裕の意識も引き出した。2人を背中で背負いながら左に反転すると、森下が消えたためにパスコースが一本だけ空いた。武藤雄は倒れ込みながら右足でパスを入れると、ファブリシオの前には広大なスペースとシュートコースが待っていた。
 CB大井健太郎は身体を100%ファブリシオ側に寄せることもできない。武藤雄が『1秒間』持ち下がったことで浦和FW興梠慎三がオンサイドラインに戻ってしまった。ファブリシオに寄せ過ぎれば、横パスを出されて興梠に決められる。双方に曖昧化した磐田DF陣は詰めきれることなく得点を許してしまった。

 単独突破する積極性やサイドに投げてしまいたがる消極性をもったプロ選手ももちろん多い。しかし、スペースで受けながら敵味方問わずの心情も察知しつつ秒間でのプレー選択を行える武藤雄樹の選択技術は、察知能力の高いコンシェルジュサービスのような卓越した技術の一つであると言える。