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【W杯戦術解析】攻守明確な戦術無きメッシ依存とクロアチアの対応策

試合前からの悪い予感が的中したアルゼンチン

 当代屈指の大スター、FWリオネル・メッシが外したPKを誰が攻められようかー。各国紙・メディアの論調虚しく、初戦アイスランドとのドロー決着に厳しい批判が寄せられた。しかし、その批判を跳ね返すが如き戦術は、サンパオリ監督筆頭に持ち合わせていなかった。
 見抜いていたか、クロアチア代表キャプテンMFルカ・モドリッチは、ライバル関係にある所属チームのエースの異変を事前に察知していたようだ。試合中にもその精度は増していった。


 一部分だけにフォーカスしすぎた指摘は大した話にはならない。GKウィルフレード・カバジェロのキックミスは対策が狭まった故のものだ。不安に押し寄せられた人間は、スポーツでも仕事でも、人間関係でもミスが増えるものだ。カバジェロに負担がかかっていない状態ならば起こらなかったと言える。
 アルゼンチンの攻撃または前線からの守備の面がハマっていなかったことが理由となるのだろう。守備陣は過度な緊張状態または幾度か押し寄せてくるだろうクロアチアの攻撃に対し、不安感を覚えていたことが窺える。
 今大会戦術論の一つとなっているのが「ハーフスペース」だ。戦術論を有しているか、有してこそいるも、実行の可否によっているかが試合を見るだけでわかるものだ。




アップデートも浸透もしていない戦術に対して

 ウイングとセンターラインの間のスペースを指すハーフスペースの活かし方ができているか否か、戦術プランを複数併用できているかが鍵となる。しかし、アルゼンチンは北京五輪大会から続く「メッシ・プラン」を継続こそしているが、まったくといっていいほど打開できていない状態がアイスランド戦で見受けられた。



 ハーフスペースはサイドバックや3バックのストッパーとセンターバックの間にできるスペースであり、現代ではこれらのスポットを多く活用できるかが攻撃的選手のタクティクスとして重要な位置づけをもっている。

日本代表が見せるハーフスペース戦術

 『魔術師』と言って良いのが日本代表MF香川真司である。得点にこそ至らなかったが、左から乾貴士、大迫勇也、柴崎岳、香川、原口元気と並び、コロンビアDFが一枚不足している通称『アウトナンバー』な状態だった。柴崎はボールを香川につけると、左のハーフスペースから横断して右ハーフスペースのエリア内へと侵入する。中央のDFを退け、中央に完全なスペースを作ることができると判断した。察知したDFが動き出そうとした瞬間、香川も動き出す。しかしここで大迫も、自らの足元でボールを貰う動きを見せた。自らのマークであるDFを外さないようにするギミックだが、香川はこれさえも囮に活用し、スピードを緩める。これにより大迫やDFも香川によったため、左のウイングスペースはおろか、左のハーフスペースすら空いたのだ。このポイントに侵入する乾にボールを配球し、チャンスを演じた。




チームディフェンスの体を成していないアルゼンチン


 アルゼンチンDFは、左から攻めてくるクロアチアアタッカー陣に対して中央を締める形を取るも、一世代前の戦術だ。右サイドにDFが皆無だが、もしここから攻め上がってくるクロアチア側の選手がいたならば、結果として失点は免れなかった。ただ、モドリッチに対して3人で当たっている構図であり、ワンフェイクからのターンによって左ストッパーの脇にシュートスペースが生まれた。その前の時点において、ハーフスペースにそれぞれが入り込み、マンツーマンも考慮に入れたゾーンディフェンスに移行できていれば、シュートは打たれたにせよコントロールシュートの正確さを削ぐことはできた。


 アルゼンチンは戦術面のアップデートができなければ、ネクストステージでの活躍は難しい。対するクロアチアはモダンサッカーが展開できていたものの、戦術面でポイントとなるような強国とたいけつできていない点が今大会における問題でもある。しかし、MFラキティッチとモドリッチらで構成される中盤の攻守の動きには、現代戦術の粋が結集されており、対ノックアウトステージ用にモデルチェンジを施すことで今大会における躍進の象徴となる可能性は窺えた。