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【W杯データ解析】ベルギーを本気にさせた『勝率75%』のロマン・トーレス

強豪が苦しむ、その傍らで

 日本時間19日に行われたロシア・ワールドカップ(W杯)グループG第1節ベルギー対パナマの一戦は、後半3得点の畳み掛けでベルギーが初戦をものにした。前半ベルギーを抑え込んだパナマの主将に対して施したベルギーの戦術変更の妙が明暗を分けた戦いとなった。

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 ベルギーは前半早々から右サイドを起点として攻め入り幾度となくシュートチャンスを得たものの、ゴールを捉えることができない。特にFWロメル・ルカクと周囲の選手の息が合わず、パナマにボールを奪われるケースが見受けられた。修正を施した後半2分に待望の先制点が生まれる。FWドリース・メルテンスが前方の選手をブラインドにして放った速いループシュートが左隅に決まる。セリエAナポリでシーズン18得点決めた本領が発揮された。
 後半24分には、左サイドでボールを保持したFWエデン・アザールがパナマ守備陣を撹乱させながらドリブルで侵入すると、ペナルティボックス左隅で待ち受けたMFケヴィン・デ・ブライネへパスを出す。インサイドキックを放つかに見えたがこれはフェイク、アウトサイドキックに切り替えて放った放物線を感じていたのがルカクだった。頭で流し込み、追加点をあげる。後半30分には、ボールを奪ったカウンターをつなぎ、中央をアザールが突破。左サイドに流れたルカクへと渡り3点目を決めた。
 いずれも起点、アシスター含めたスーパーゴールといえる流れから決まったゴールだったが、前半と大きな変化を見せたのは、ベルギー攻撃陣による『スライド』ということが『Opta』のデータから明らかになってきた。




脅威を感じさせたロマン・トーレス

 前半にパナマがルカクを抑え込んだ要因はCBロマン・トーレスだった。ハーフタイム時点でのデュエル勝数は4戦3勝。いずれもルカク相手に得た勝利数だ。クラブの格や選手の名に怯えるプレイヤーも多い中、トーレスは毅然と対峙した。ルカクのポジションが定まらないため、メルテンスやアザールの位置取りは悪くなり、トマ・ムニエ、カラスコの両サイド選手に預けるケースが多く、中央の選手たちが詰まってしまった。しかし、トップがずれているため、サイドの選手たちはスペースがあったとしても、カットインやクロス対応にずれが生じる。”ずれの理由”に気が付かないまま、時間は過ぎていった。


 結果として後半終了時に計測したロマン・トーレスのデュエル数は前半終了時と同じ『4戦3勝』のままだった。1点目のメルテンスのドライブループシュートは素晴らしい個人技だったが、2点目のデ・ブライネのアウトサイドパス、3点目のアザールの突破はそれぞれ、トーレスをルカクのマークから剥がすための時間だった。
 ”ずれの理由”に気づいたベルギーは、アルゼンチンやブラジル、ドイツらが陥った戦術の罠に嵌まることなく初戦の勝利を獲得した。パナマは「前半を継続できれば…」との考えもあったことだろう。しかし、W杯の舞台でプランAだけでは勝ち残れない。プランB、プランCと戦術を変化させられるチームが大会を制する。