強国とあたり続けた2014年のコスタリカ
メキシコがドイツを破った。序盤から攻撃の手を緩めなかったメキシコは、序盤から”牽制”の攻撃を繰り出す。ドイツ両CBマッツ・フンメルス、ジェローム・ボアテングは向かってくるハビエル・エルナンデス(チチャリート)をいなすが、牽制に見えていた攻撃に『毒』が盛られていたことには気が付かなかった。
ドイツはボランチに守備的なサミ・ケディラを配し、LSBには当日変更でマルヴィン・プラッテンハルトが名を連ねたこともあり、右サイドのヨシュア・キミッヒを起点に攻めることを選択。多少の幸運にも恵まれたものの、メキシコの狙いはまさに「キミッヒ」を起点にさせることにあった。高い位置にわざとキミッヒを侵入させ、LSBヘスス・ガジャルドとLMFイルビング・ロサーノが止める。チチャリートがCBと対峙する間に両サイドがスプリントをかけたところに配給し、ディフェンスのズレが生じたところを確実に決める。戦略は功を奏した。ロサーノの値千金先制弾によりメキシコは破顔一笑の勝利を得た。
本大会は、前大会でのモデルケースとなったチーム、強者チームが下位チームに善戦されるケースが多い。ウルグアイに迫ったエジプト、フランスに肉薄したオーストラリア、アルゼンチンから勝ち点を奪ったアイスランド、そしてドイツに勝利してみせたメキシコだ。
強国は露出が多く、データの取得がたやすい。そのような弱者の兵法を心得て実践したのが、2014年ブラジル・ワールドカップにおけるコスタリカだった。
初戦コスタリカが対戦したのは、2010年南アフリカW杯MVPディエゴ・フォルラン擁するウルグアイだった。FWエディソン・カバーニ、CBディエゴ・ゴディンなどと各ポジションに世界トップクラスの選手を配したチーム相手に、コスタリカは勝利した。先制こそカバーニに許すも、54分、57分と立て続けに得点して勝負あり。なんとカバーニに得点を許して以降336分の間無失点に抑え続けることとなる。
続く二戦目のイタリアにも勝利し、三戦目のイングランドはスコアレスドロー。ウルグアイだけでなく欧州の強国相手に戦い抜き、史上最悪の死のグループと称されたグループは、FIFAランク下位2カ国が上位2カ国を破ってノックアウトステージへ進出するジャイアントキリングが発生した。
席巻した”5-4-1”は秀逸な弱者の兵法
『5レーン』という現代浸透し始めた、ピッチを縦に5分割する考え方を忠実に守ったのが2014年のコスタリカだった。実力のあるGKナバスをベースに、5人のDFが与えられたポジションを守りきり、好きに侵入させなかった。相手DFをずらして侵入してくる強国最新鋭の戦術相手に真っ向から挑み、攻撃を瓦解させることで『カウンター戦術』は機を熟した。
唯一プランニングが瓦解したのは、決勝トーナメント初戦のギリシャ戦だった。日本と同グループだったギリシャもまた身の丈にあった守備から入る戦術で弱者の兵法を用い、グループを突破してきた。
結果としてコスタリカは勝利したものの、後半AT捨て身の覚悟で攻め入ったギリシャの圧力を跳ね返す力は既に残されていなかった。ソクラティス・パパスタソプーロスに決められてしまった。
それでも、ベスト8オランダ戦に『失点』の流れを持ち越すことはなく、120分間戦い抜いてスコアレスドロー。快進撃はPK戦で潰えたが510分間で2失点と史上屈指の守備力で勝ち上がった姿を世界中はたたえた。
今大会のコスタリカは、欧州最新モードのセルビアを前に、初戦0-1で散るも、ディフェンスは変わらずに機能した。ただしグループ自体が前回同様のセットアップではないため、異なる策略が必要となる。
新たな戦術『アイソレーション』で穿ってきたメキシコは、今大会の台風の目となる可能性がある。両サイドで役目が異なる強豪国にとっては対策を講じることが最も難しい。日本やスイスと言った両サイドのバランスが取れている国には効かないが、片側のサイドに集めて崩落させれば、気づけば砂上の楼閣となるアシンメトリー。メキシコの左サイドとチチャリートがなす新戦術を見逃すのはもったいない。